最新記事

米中貿易戦争

米中貿易第1段階合意はトランプの大ウソ、第2段階はない

The Good, the Bad, and the Ugly: Three Takeaways From the Would-Be U.S.-China Trade Deal

2019年12月16日(月)19時10分
キース・ジョンソン

第1段階の合意は本物の貿易協定ではなく、本質的には「大規模な輸入合意」だ。また、この合意そのものにも疑問符が付く。中国は来年、500億ドル分の米農産品を輸入する用意があるとの報道がもっぱらだが、この点にアナリストは納得していないのだ。この数字は中国市場の需要を上回っている可能性が高いうえ、アメリカの農家がそれだけの量を生産できるかどうかも明らかではない(ちなみにアメリカから中国への農産品輸出高は300億ドルを超えたことがない)。

つまり、2年にわたる追加関税、貿易戦争による米農家の破産や不安定な株式市場といった犠牲を払ったあげくの「成果」は、オバマ政権最後の年の状況に戻るだけということになりかねない。この年でも中国は、アメリカの最大の農業輸出国として米国産の大豆やトウモロコシ、豚肉などを214億ドルほど輸入していた。

「大回りしたあげく、アメリカにとってはあまりいい結果にはなっていない」とラブリーは言う。

だがそもそも米中の貿易戦争は、中国が国家ぐるみでアメリカの知的財産権を侵害したり、国有企業を支援するなど組織的に競争を阻害しているとの疑惑があったために、アメリカが通商法301条による調査を始めたことに端を発している。そうした問題への正しい対処として今回の合意が意味を持つのかは明らかではないし、今後の交渉に期待をつなぐこともできない。

がまんができないトランプ

「(今回の合意は)米中の経済関係のいかなる問題の解決にもつながらないだろう。農産物や原油の輸出の問題ではない」と、アメリカン・エンタープライズ研究所の中国専門家、デレク・シザーズは言う。

しばらく前から米当局者は、限定的な「第1段階」の合意という言葉を口にし始めていた。大きな打撃を受けた農家をある程度救うことを先行させ、意見の隔たりの大きい構造的な問題は続く第2段階の合意で扱うというわけだ。だが関税の引き下げや中国側の一定の譲歩があったからといって、トランプが主張するように第2段階の協議がすぐに始まるとは思えない。

「第2段階の合意はないだろう。中国側に動機がない」とシザーズは言う。

中国を経済モデル全体の構造を変えさせることが不可能だと言うのではない。ただ、実現にはもっと持続的な(トランプが望むよりずっと長期間の)圧力が必要になる、とシザーズは言う。

「根本的な問題の変化には、6年はかかるだろう。だがアメリカが中国に重い関税をかけるようになってまだ7〜8カ月しか経っていない。7カ月では中国との貿易摩擦で勝つことはできないのに、トランプはがまんできないのだ」

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ECB、適時かつ小幅な利下げ必要=イタリア中銀総裁

ビジネス

トヨタ、米インディアナ工場に14億ドル投資 EV生

ビジネス

米GDP、第1四半期は+1.6%に鈍化 2年ぶり低

ビジネス

ロイターネクスト:米第1四半期GDPは上方修正の可
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP非アイドル系の来日公演

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 7

    やっと本気を出した米英から追加支援でウクライナに…

  • 8

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 9

    自民が下野する政権交代は再現されるか

  • 10

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中