最新記事

プラスチック・クライシス

先進諸国のごみの受け入れを拒否する東南アジア

NO LONGER TOLERABLE

2019年11月28日(木)19時40分
マゲシュワリ・サンガラリンガム、サム・コッサー(NGO「フレンズ・オブ・ジ・アース」)

ペットボトルの山を仕分けるインドネシア人家族 Beawiharta-REUTERS

<中国の受け入れ拒否でプラごみ輸出の矛先は東南アジアへと変わったが>

30年ほど前から、アメリカや日本を筆頭とする先進諸国は大量のプラスチックごみ(プラごみ)をせっせと遠くの国へ輸出してきた。総量は約1億6800万トン。行き先は、もっぱら中国だった。

その中国は昨年、ついに愛想を尽かしてプラごみの輸入を禁止した。慌てた先進諸国は、急場しのぎで輸出先を東南アジア諸国に変更した。おかげでマレーシアやベトナム、タイ、インドネシアにはプラごみの洪水が押し寄せ、環境にも住民にも深刻な被害が出ている。

こんなことは持続不能だ。今年5月には国連で、180カ国以上がプラごみをバーゼル条約の規制対象に加えることに合意した。この条約は有害な廃棄物の国際移転を規制するもの。今回の決議で、汚れたままで分別されておらず、リサイクルできないプラごみの輸出には受け入れ国の同意が義務付けられた。

EU諸国は既に、バーゼル条約の対象となる有害廃棄物を国外へ搬出することを法律で規制している。今後は汚れたままで分別されていないプラごみを途上国に送り込んで処理を委ねる行為も禁止されるだろう。

これで先進国発東南アジア行きの「プラごみ貿易」が減るのは間違いない。しかし現地にあふれるプラごみは既に人々の生活に欠かせない水路を汚染し、火災や不法投棄などを引き起こしている。

野放しのプラごみ貿易は受け入れ先の人々の暮らしに悪影響を与えている。タイ中部チャチューンサオ県にあるコックフアカオという村では、昨年、外国系のごみ処理施設が稼働して以来、地下水が汚染されて飲めなくなっている。

当然のことながら、アジアの国々はプラごみ貿易の規制強化を歓迎している。しかし世界中の誰もが支持しているわけではない。世界最大のプラごみ輸出国であるアメリカや石油化学業界、一部のリサイクル業団体は反対している。

アメリカはバーゼル条約に加盟していないから、今回の規定変更に反対票を投じる立場にもなかった。それでも今後は、汚れたままのプラごみを海の向こうの途上国へ押し付けることが難しくなる。

プラごみはリサイクル不能

こうした流れが続けば、結果として海のプラスチック汚染も改善されるはずだ。ごみ輸出国(世界に冠たる先進国ばかりだ)も自国の領土内で、しっかりプラごみを処理せざるを得なくなるだろう。

現実問題として、先進国の消費者はプラスチック製品を分別してリサイクルに回したつもりでいるが、実際には洗浄やさらなる分別が必要なものを簡単に処理して途上国へ押し付ける例が多い。適正なリサイクルやごみ削減の努力より往々にして安上がりだからだ。一方、受け入れた東南アジア諸国でもプラごみは適切にリサイクルされず、たいていは焼却されるか埋め立てられ、そのまま自然環境に放置される場合もある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、民間インフラ攻撃停止提案検討の用意=大

ビジネス

米景気後退の確率45%近辺、FRBへの圧力で長期影

ワールド

米国のウィットコフ特使、週内にモスクワ訪問=ロシア

ワールド

米・イスラエル首脳が電話会談、トランプ氏「あらゆる
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 2
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 3
    パウエルFRB議長解任までやったとしてもトランプの「利下げ」は悪手で逆効果
  • 4
    日本の人口減少「衝撃の実態」...データは何を語る?
  • 5
    コロナ「武漢研究所説」強調する米政府の新サイト立…
  • 6
    アメリカは「極悪非道の泥棒国家」と大炎上...トラン…
  • 7
    なぜ世界中の人が「日本アニメ」にハマるのか?...鬼…
  • 8
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 9
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 10
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 7
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 3
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 8
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 9
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 10
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中