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香港高裁と北京政府が激突

2019年11月21日(木)13時40分
遠藤誉(中国問題グローバル研究所所長)

●香港基本法第8条は「緊急条例を含む香港の既存の法律は、香港基本法に抵触する場合を除き、そのまま保留する」と定めている。

●最も肝心なのは、1997年2月23日に開催された第八期全人代常務委員会第24回会議で「中華人民共和国香港特別区基本法第160条に基づき香港の既存の法律を取り扱う」ことに関して、「緊急条例を香港特別行政区法律として採用する」という決定をしていることだ。したがって、緊急条例は香港基本法に合致している。

●このたびの香港高裁第一審の判決内容は、香港特別行政区長官と香港政府の方に基づく管轄統治権を著しく弱めるものであり、香港基本法と全人代常務委員会の関連する決定に合致しない。厳しく抗議する。

以上の意見を、CCTVは、多くの組織による香港高裁判決への糾弾として、あらゆる角度から繰り返し繰り返し、激しく報道した。

ご参考のために、その中の一つである香港法律界の意見をご紹介しておこう。そこでも「中華人民共和国憲法第67条により、法律の解釈権は全人代常務委員会にある」と規定されていることを強調している。

今回のデモの真因は香港司法と北京政府との対立構造にある

9月24日付のコラム「香港最高裁・裁判官17人中15人が外国人――逃亡犯条例改正案最大の原因」にも書いたように、そもそもデモのきっかけとなった「逃亡犯条例改正案」は香港の最高裁判所に外国籍の裁判官が多数を占めていることにあった。

香港の司法は高等裁判所も外国籍裁判官によって占められていて、北京政府と対立構造にある。おまけに最高裁判所よりも驚くべき現実があり、高等裁判所にはアメリカ国籍の裁判官さえ複数存在し、アメリカ政府に有利な方向に司法判断をする可能性さえ否定しきれないのだ。

そのため北京政府は早くから全人代常務委員会の権限を最大限に駆使して、香港司法の力を弱めようとしているが、今般の香港高裁の判決は、香港司法弱体化を狙う北京政府の格好の攻撃材料となるだろう。

香港最高裁であっても糾弾の対象となろうが、ましてやその下にある香港高裁の違憲判決など必ず撤回に追い込むのが北京政府の決意で、香港司法はこのたびの判決により、弱体化加速を余儀なくさせられていくにちがいない。

なお、香港司法と香港デモの構造に関しては、拙著『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』で考察した。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

[執筆者]遠藤 誉
中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『米中貿易戦争の裏側 東アジアの地殻変動を読み解く』(11月9日出版、毎日新聞出版 )『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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