最新記事
人体

深い眠りによって脳内の老廃物が洗い流されていることがわかった:研究結果

2019年11月15日(金)15時30分
松岡由希子

脳脊髄液の波が老廃物を洗い流す...... Laura Lewis

<深い眠りの状態にあると、脳脊髄液の流入が増え、脳内の老廃物を洗い流していることが明らかになった......>

睡眠は、私たちの認知機能や脳機能のメンテナンスに不可欠なものである。このほど、ノンレム睡眠のうち、脳波に振幅の大きくゆるやかな波が多く出現し、深い眠りの状態にある「徐波睡眠」において、脳脊髄液(CSF)の流入が増え、脳内の老廃物を洗い流していることが明らかとなった。

脳圧を安全なレベルに保つため?

米ボストン大学の研究チームは、高速撮像技術を用いて、ノンレム睡眠中における脳脊髄液の律動を初めてとらえ、脳脊髄液の動きと脳波の活動、血流が密接に結びついていることを示した。この研究成果は、2019年10月31日、学術雑誌「サイエンス」で公開されている。

F9VJ8YZ.gif


マウスを対象とした2013年の研究結果では、脳脊髄液の流れと徐波睡眠が脳内の老廃物の除去に重要な役割を果たしていることが明らかにされたが、脳脊髄液の動きについては、これまでとらえられていなかった。

そこで研究チームは、23歳から33歳までの成人13名を対象に、脳波(EEG)ヘッドセットで脳波を測定するとともに、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)を用いてノン睡眠時の脳脊髄液の様子をモニタリングし、脳波において周波数の低い波が多くなると、脳の血流が低下し、脳脊髄液が脳内に流れ込むことを示した。ニューロン(神経細胞)が遮断されると、それほど酸素を必要としないため血液が減り、血液が流出すると脳内の圧力が低下するので、脳圧を安全なレベルに保つべく脳脊髄液が急速に流れ込むものと考えられる。

自閉症やアルツハイマー病、加齢による障害......などの解明の糸口

この研究成果は、自閉症やアルツハイマー病など、睡眠パターンの乱れと関連する神経障害や心理障害のさらなる解明に向けた糸口のひとつとして、期待が寄せられている。

また、このような脳波と血流、脳脊髄液との関係が、正常な範囲内での加齢による障害にも影響をもたらしている可能性がある。加齢に伴って、睡眠時、脳波で周波数の低い波が少なくなるためだ。これによって、脳内の血流が減らずに、脳脊髄液の流入を妨げ、老廃物が十分に洗い流されないことで、有害なタンパク質の蓄積がすすんでいるのかもしれない。

研究チームでは、今後、脳波と血流、脳脊髄液がどのように同期をとっているのかについて、解明をすすめていく方針だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中