最新記事

アフリカ

絶望の縮図シエラレオネに希望を探し求めて

Hopelessness and Hope

2019年11月1日(金)18時10分
サム・ヒル(作家、コンサルタント)

ただし、援助は貧困を緩和しても、解決はしない。援助は非効率的で、腐敗を助長し、受ける側の自立を破壊すると、数多くのプロジェクトに携わってきたシエラレオネのジョン・ラハイは言う。

援助への依存を断ち切ることは、容易ではない。国際開発に詳しいオックスフォード大学のポール・コリアー教授によると、最貧国ではこの30年、援助が成長率を年間約1%底上げしてきた。単純に打ち切れば、何百万という人が飢えるだろう。

トップダウン型改革の功罪

ガーナの経済学者ジョージ・アイッティは、「農民が繁栄していた黄金時代」への回帰を提案する。アフリカの食糧生産は1961年には自給自足を実現していたが、2007年までに20%の供給不足に陥った。

アイッティや多くの援助活動家は、ボトムアップの開発モデルを支持する。基本的なインフラを提供し、マイクロファイナンス(貧困層向け小規模融資)を活用するのだ。

もっとも、現実的ではなさそうだ。マイクロファイナンスは心温まる逸話を生むが、変化を起こすには小規模過ぎると、コリアーは指摘する。

何より、人々がそれを求めているのだろうか。自給自足農業は、次の収穫まで食いつなげれば大成功という貧困生活でもある。私が現地で話をした若者は、誰一人興味を示さなかった。

もう1つの選択肢は、強力な民間セクターを育てて、近代的な都市社会を建設するシンガポール方式だ。

ルワンダのポール・カガメ大統領は、貧弱な公衆衛生や社会の腐敗など、投資家に嫌われる問題点の解決に力を入れ、インフラや技術研修に投資してきた。ルワンダは金融サービスと情報技術が発展し、世界銀行の「ビジネス環境の現状」ランキングで29位に躍進している。

シエラレオネとルワンダは同じような国土の広さと人口で、人口動態も似ている。どちらも民族の衝突を抱え、内戦から復活しつつある。

ただし、ルワンダ方式は代償を伴う。カガメは一党支配を確立し、98.9%という疑わしい得票率で再選されて、自分が77歳まで続投できるように憲法を改正した。

私がシエラレオネで話を聞いた多くの人は、民主主義を捨てて繁栄するという取引を受け入れるだろう。問題は指導者だ。リー・クアンユーは、そう簡単には見つからない。コリアーが言うように、「独裁が成功の方程式だとしたら、今頃アフリカの国々は裕福になっている」。

昨年4月に就任したシエラレオネのジュリウス・マーダ・ビオ大統領は、欧米からの投資に期待する。ただし、ビジネスには適切な環境が必要だ。ルールのない自由市場は、権力者の私物化へと堕落する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

欧州委、ウクライナのEU加盟努力評価 改革加速求め

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダック上昇、アマゾン・オ

ワールド

ウクライナ東部の要衝ポクロウシクの攻防続く、ロシア

ワールド

クック理事、FRBで働くことは「生涯の栄誉」 職務
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中