最新記事

テクノロジー

グーグルは本当に量子コンピューターの開発に成功したのか?

Google Scientists Claim 'quantum Supremacy' With New System

2019年10月25日(金)16時00分
アリストス・ジョージャウ

グーグルの量子コンピューターの1つとスンダー・ピチャイCEO(カリフォルニア州サンタバーバラ) Google/REUTERS

<スパコンで1万年かかる計算をたった3分20秒でやってのけたという仕組みは?>

グーグルの研究チームは、同社の量子コンピューターが、従来のスーパーコンピューター(スパコン)で約1万年かかる計算を「わずか数分」で解いたと発表した。

従来型のコンピューターに(実用的な時間内では)できない課題をクリアすることを「量子超越性」といい、今回の発表はそれを達成するための一里塚と受けとめられている(量子コンピューターの実用化はまだ数十年先の話だが)。

英ネイチャー誌に発表された論文によれば、研究チームは乱数を生成する問題をコンピューターに解かせる実証実験を行った。すると世界最高性能のスパコンでも1万年かかる計算を、グーグルの量子コンピューターは3分20秒で解いたという。

<参考記事>量子コンピューターがビットコインを滅ぼす日

米マサチューセッツ工科大学(MIT)のコンピューター科学者であるウィリアム・オリバー(今回の実証実験には関わっていない)は、ネイチャー誌に寄稿した解説で、グーグルの成果を「偉業」と称賛。「量子コンピューターの計算モデルが従来型コンピューターの計算モデルとは根本的に異なることを、実験によって証明した」と述べた。

量子力学の不思議を活用

量子コンピューターは、量子力学の奇妙な原理を利用して計算を行う。

従来型のコンピューターは「ビット」という情報単位を使っている。これは「0」か「1」のどちらかの状態しか表すことができないのに対し、量子コンピューターが使う情報単位「量子ビット」は、同時に「0」でも「1」でもあって、「0」と「1」の間のすべての値でもある。扱える情報量が大幅に増えるため、演算能力も大幅に高まるのだ。


そのため量子コンピューターは従来型コンピューターよりもはるかに速いスピードで課題をクリアする潜在能力を持っている。だが量子超越性を達成するには、メモリー容量が十分にあり性能が安定した量子プロセッサが必要だ。量子現象が予測不可能なものであることを考えると、その達成はとても難しい。

だがジョン・マルティニスとセルジオ・ボイクソが率いるグーグルの研究チームは今回、エラーの訂正能力が高い53量子ビットのコンピューターを使った。猛スピードで演算を行うそばから誤った答えを排除していくことで、量子超越性を達成したのだ。

グーグルの量子コンピューターは、「重ね合わせ」と「もつれ」という量子力学の2つの原理を活用している。どんなに距離が離れた場所にあっても、量子が異なる状態で同時に存在できる(たとえば「0」と「1」を同時に存在させる)原理と、量子同士が「もつれ合い」の状態になって互いに影響し合う原理だ。

<参考記事>量子コンピューターでの偉業達成を誇るGoogle、それを認めないIBM

今回の量子超越性の達成は快挙だが、量子コンピューターの実用化までにはまだ多くの研究が必要だとオリバーは主張する。

「特に、近い将来の実現が予想されている中規模量子コンピューターで作動させられるアルゴリズムの開発が必要だ」と彼は書いている。「それに長期的に耐故障性があり、エラー訂正能力の高い安定したプロトコルも実証する必要があるだろう」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

メラニア夫人、プーチン氏に書簡 子ども連れ去りに言

ワールド

米ロ首脳、ウクライナ安全保証を協議と伊首相 NAT

ワールド

ウクライナ支援とロシアへの圧力継続、欧州首脳が共同

ワールド

ウクライナ大統領18日訪米へ、うまくいけばプーチン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 10
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中