最新記事

健康

肥満の人が喘息になりやすいのは、肺が圧迫されるためではなかった:研究結果

2019年10月24日(木)18時00分
松岡由希子

肥満の人の気道壁に脂肪細胞が蓄積する...... Sopone Nawoot-iStock

<西オーストラリア大学の研究チームは、肺の中の気道の構造を分析し、太り過ぎもしくは肥満の人の気道壁に脂肪組織が蓄積していることを世界で初めて示した>

動脈に脂肪が蓄積すると心臓障害を発症するリスクが高まる。アメリカの国立衛生統計センター(NCHS)が2001年から2014年までの全国健康栄養調査(NHANES)のデータを分析したところ、肥満の人における喘息の有病率は11.1%で、標準体重の人よりも高くなっている。

その原因については、これまで、肺が圧迫されたり、体内で炎症が起こるためだと考えられてきたが、肺に蓄積された脂肪が作用している可能性を示す研究結果が明らかとなった。

脂肪組織が肺の気道の構造を変え、喘息の発症リスク増加

西オーストラリア大学の研究チームは、肺の中の気道の構造を分析し、太り過ぎもしくは肥満の人の気道壁に脂肪組織が蓄積していることを世界で初めて示した。これらの脂肪組織が気道の構造を変え、喘息の発症リスクの増加につながっている可能性があるという。

一連の研究成果は、2019年10月17日、欧州呼吸器学会(ERS)の医学雑誌「ヨーロピアン・レスパラトリー・ジャーナル」で公開されている。

研究チームは、死亡した52名の肺のサンプルを分析。色素を使って1373本の気道を視覚化し、気道に蓄積している脂肪組織を特定するとともに、これを定量化した。対象者のうち16名は喘息で死亡し、21名は喘息に罹患していたが喘息以外の原因で死亡し、15名は喘息にかかったことがなかった。

脂肪組織の量と対象者の肥満指数(BMI)を比較したところ、肥満指数の上昇に伴って、気道に蓄積された脂肪量も増えることがわかった。また、脂肪の増加によって気道の正常な構造が変わり、肺の炎症を引き起こしていることも明らかとなっている。研究論文の責任著者である西オーストラリア大学のピーター・ノーブル准教授は「気道壁の肥厚によって肺への空気の出入りが制限され、喘息症状の悪化の一因となっているのかもしれない」と考察している。

fatty-tissue-2.jpgSample micrographs showing adipose cells (fat). (European Respiratory Journal)

「体重と呼吸器疾患との関係を示す重要なものだ」

欧州呼吸器学会の会長を務めるベルギーのルーヴェン・カトリック大学のティエリー・トロースター教授は、この研究成果を「体重と呼吸器疾患との関係を示す重要なものだ」と評価。「この研究結果によれば、太り過ぎや肥満によって喘息患者の症状が悪化するおそれがある。喘息患者が標準体重を維持できるようサポートすべきであろう」と述べている。研究チームでは、今後、減量によって喘息の症状が改善するのかどうか、詳しく調べる方針だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン反体制派NCRI指導者、国民に体制打倒呼びか

ビジネス

豪5月CPIは+2.1%に鈍化、コア3年半ぶり低水

ワールド

ガザでの戦闘で兵士7人死亡=イスラエル軍

ビジネス

米スピリット航空、ジェットブルーとユナイテッドの提
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係・仕事で後悔しないために
  • 4
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 5
    都議選千代田区選挙区を制した「ユーチューバー」佐…
  • 6
    細道しか歩かない...10歳ダックスの「こだわり散歩」…
  • 7
    「子どもが花嫁にされそうに...」ディズニーランド・…
  • 8
    人口世界一のインドに迫る少子高齢化の波、学校閉鎖…
  • 9
    「温暖化だけじゃない」 スイス・ブラッテン村を破壊し…
  • 10
    イスラエル・イラン紛争はロシアの影響力凋落の第一…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 5
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 6
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 7
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 8
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 9
    「アメリカにディズニー旅行」は夢のまた夢?...ディ…
  • 10
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中