最新記事

嫌韓の心理学

保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)

THE COLLAPSE OF THE CONSERVATIVES

2019年10月11日(金)18時10分
古谷経衡(文筆家)

magSR191011furuya-2.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

少なくとも2000年代後半~10年代初頭まで、この国では保守とネット右翼は分離していた。前者のよりどころは「改憲・自主憲法制定」「靖国神社公式参拝推進」「東京裁判史観の是正」であり、嫌韓は大きなウエートを占めてこなかった。理由は、冒頭に挙げたとおり保守の中の少なくない部分が、かつて反共保守として韓国人と交歓を持つ者であったからである。

一方、後者のネット右翼は、2002年のサッカーワールドカップ日韓共催大会からネット上に繁茂してきた連中で、冷戦時代における日韓の蜜月などという事実を知らず、ひたすらに韓国(この場合は韓国チームやサポーターら)と(彼らからすると)その専横を擁護するように思える日本国内のマスメディアへの攻撃に終始した。そうした中から在特会(在日特権を許さない市民の会)が生まれ、2ちゃんねる(現5ちゃんねる)は嫌韓と「親韓」マスメディアへの呪詛としか言いようのない批判的姿勢がスタンダードとなった。

だから、2011年に不当に韓流ドラマを垂れ流しているとして起こったフジテレビ抗議デモ(参加者延べ1万人)は、東京・南麻布にある駐日韓国大使館ではなくお台場のテレビ局に向かったのである。つまりネット右翼は「嫌韓」と「嫌メディア」という2大特性を兼ね備えて出発した存在であった。

このとき、既存の保守は、実を言えばこのようなネット発の嫌韓の潮流を冷ややかに見つめていた。それは既に述べたとおり、保守の少なくない部分を構成する者が反共保守として韓国人と交歓の経験を持っていたから。さらに核心を言えば、ネット右翼はフジテレビという「保守の虎」の尾を踏み付けていたからである。

日本最大のメディア・コングロマリットの1つ、フジサンケイグループは、フジテレビを頂点として傘下に複数のメディアを持つ。全国紙「産経新聞」、そして現存する日本で最も歴史の古い保守系雑誌「正論」、日刊スポーツ紙「夕刊フジ」。出版事業として「産経新聞出版」「扶桑社」など。

産経新聞の常連寄稿者や正論の執筆者は、当然、これら保守業界の枢機に位置する。彼らがネット右翼のフジテレビ攻撃に同調しなかったのは、このような資本関係があるからである。当時、フジテレビ抗議デモに参加したある男は、産経新聞を片手に握りながらフジテレビと韓国に対する批判をまくしたて、「なぜ産経新聞ですらこのデモを報道しないのか」と嘆いていたのを私は今でも強烈に記憶している。報道しないのではなく、できないのである。そんなことも分からないで、ひたすらに妄想(「フジテレビ社主は在日朝鮮人」など)とヘイトを虚空にまき散らしていたのが、当時のネット右翼の標準的な知性レベルであった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、トランプ氏にクリスマスメッセージ=

ワールド

ローマ教皇レオ14世、初のクリスマス説教 ガザの惨

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 3
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 4
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 4
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中