最新記事

嫌韓の心理学

保守がネット右翼と合体し、いなくなってしまった理由(古谷経衡)

THE COLLAPSE OF THE CONSERVATIVES

2019年10月11日(金)18時10分
古谷経衡(文筆家)

magSR191011furuya-3.jpg

HAJIME KIMURA FOR NEWSWEEK JAPAN

しかし、時がたつにつれてこの二者、つまり保守とネット右翼は銀河同士の衝突のようにゆっくりとだが着実に接近していく。その仲介役を担ったのが、2000年代後半から2010年代前半に権勢を振るったCS放送局である「日本文化チャンネル桜」であった。チャンネル桜は、いわゆる保守、つまり旧態依然とした反共保守を含む古典的な保守の言説を、ネット空間に「動画」として組織的・恒常的にばらまいた第一人者である。

それまで、せいぜい個人が細々と行っていたネット右翼動画の世界に、法人が(一応)体系的に、20分とか40分とかの尺で理屈をまくしたてる番組を「投入」したパイオニアこそチャンネル桜であった。これによって、保守とネット右翼は急速に合体の道をたどっていく。ネット右翼は、体系的に投入され続けるそれらの動画のとりこになり、チャンネル桜はこの時期黄金期を迎える。延べ月間再生回数で数百万を優に超え、保守とネット右翼をブリッジする「両界の巨人」として君臨するのだった。

2012年に私が1010人のネット右翼を対象にアンケート調査したところによると、平均年齢は38.15歳。男女比は76:24。4年制大学卒(中退含む)は全体の6割を超え、年収は中の上。最も多い職種が自営業、役員・管理職の順であった。このことからも分かるように、ネット右翼は社会的落伍者では決してなく、むしろ社会的には比較的上位に位置する階級であると言える。政治学者・丸山眞男の言う、「日本型ファシズムを支えた中間階級第一類」とうり二つである。つまり地主、教員、会社や工場の責任者、町内会や自治会の長、零細企業経営者のそれだ。

彼らは、在日コリアンと在日朝鮮人と在日韓国人の区別もつかず、ただ差別を区別だと言ってのける。こうした連中がなぜわが国において比較的上位の社会階級にあるのかと言えば、悲しいことにわが国では、近現代史の知識と学歴は比例しないからである。日韓条約や日本の朝鮮半島の植民地支配に全くの無知でも、大学受験や医師国家試験、司法試験には関係がない。

保守の古老は有頂天になった

だから彼らネット右翼は、特に歴史に対して虫食い状の基礎知識しか用いておらず、そこにチャンネル桜の流すトンデモ・右傾化した動画が放り込まれることによって、無批判にその内容を信じ、「ネットde真実」(ネット上の情報が全て真実と思い込むこと)が形成されていく。前掲した在特会の元会長桜井誠も、実はチャンネル桜の出身者で、2000年代中盤の一時期常連出演者として名をはせていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印首都の車爆発、当局がテロとの関連含め捜査中 少な

ワールド

焦点:英BBC、「偏向報道」巡るトップ辞任で信頼性

ビジネス

街角景気10月現状判断DIは2.0ポイント上昇の4

ワールド

タイ、カンボジアとの停戦合意履行を停止へ 国防相が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一撃」は、キケの一言から生まれた
  • 2
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    インスタントラーメンが脳に悪影響? 米研究が示す「…
  • 7
    中年男性と若い女性が「スタバの限定カップ」を取り…
  • 8
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 9
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 10
    「爆発の瞬間、炎の中に消えた」...UPS機墜落映像が…
  • 1
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中