最新記事

メディア

インドネシア、パプア巡り報道規制 K-POPや華流スターの偽SNSで情報操作も

2019年10月15日(火)15時35分
大塚智彦(PanAsiaNews)

当局にとっての「不都合な真実」とは

こうした情報を巡る当局と海外のメディアや支援組織のパプアを巡る動きはまるで「情報戦」の様相を呈しており、ワメナをはじめとする山間部で実際に何が起きているのか、外部に伝わらない状況が続いている。

辛うじて連絡が可能なパプア州の州都ジャヤプラの関係者にも断片的な情報しか届いていないのが実情で、ンドゥガ県など山間部では増員された軍部隊による独立派組織への掃討作戦が展開されているようで、深刻な人権侵害が起きている懸念が高まっている。

いずれも政府、治安当局にとっては「報道してほしくない都合の悪いこと」が起きていると支援団体などではみている。

大統領に真摯で根本的な対応求める

そんななか、地元メディア「テンポ」紙は10月10日、「パプア問題の誤解」と題する記事を掲載。

「パプア問題を政府は経済格差解消やインフラ整備などで解決しようとしているが、これは間違いである。パプア人の誇り、尊厳に敬意を払い、これまでの過去の人権問題の解決なしには平和を確立することはできない」と断じ、ジョコ・ウィドド大統領のパプア問題に対する真摯で根本的な解決の道筋を探る努力を促した。

9月23日以後のワメナでの騒乱状態に対しても「軍や警察の投入で事態は沈静化したかにみえるが、ワメナの人口の25%にあたる11646人の非パプア人が町を脱出した。これは非パプア人にとって依然として危険な状況にあることであり、こうした力での解決方法はもはや通用しない」と手厳しく政府の対応策を批判した。

こうしたメディアの批判があるなか、ジョコ・ウィドド大統領は10月11日、ジャカルタの大統領官邸にパプア人小学生を招いて歓談、パプア人との融和を演出してみせた。その席で10月20日の大統領就任式後に発表する新内閣閣僚リストに「少なくとも1人以上のパプア人の閣僚を登用する」との方針を明らかにした。

小学生との歓談、大臣登用そして情報操作による情報戦などがパプア問題の根本的解決にならないことは「テンポ」の指摘通りである。ジョコ・ウィドド大統領はパプア問題の根の深さ、深刻さを理解していないようで、10月20日からスタートする2期目の政権運営で「パプア問題」が大きな課題となることは確実とみられている。


otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド・中国外相がニューデリーで会談、国境和平や貿

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

米ウクライナ首脳会談開始、安全保証巡り協議へとトラ

ワールド

ロシア、ウクライナへのNATO軍派遣を拒否=外務省
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中