最新記事

自然

水深3200メートル、クジラの死骸に群がる深海魚、撮影される

2019年10月21日(月)17時40分
松岡由希子

海底に沈んで、魚などの餌となったクジラ...... EV Nautilus-YouTube

<海洋探査船ノーチラス号は、カリフォルニア沖の海底火山の探査活動中に、水深3240メートルの海底でクジラの死骸に遭遇した......>

米国の海洋探査船ノーチラス号は、2019年10月16日、米カリフォルニア沖の海底火山「ダビッドソン海山」での探査活動中に、水深3240メートルの海底でクジラの死骸に遭遇した。

クジラが死後、海底に沈んで、魚類の餌となり、海底で生息する環状動物や甲殻類、微生物などのすみかとなる「ホエールフォール(鯨骨生物群集)」である。このクジラは体長4メートルから5メートルで、顎骨のひげからヒゲクジラ亜目とみられ、脂肪や内臓の一部が残っていたことから死後約4ヶ月と推定されている。


ノーチラス号の遠隔操作探査機(ROV)によって、仰向けに横たわったこの死骸を様々な生物が食している様子が映像でとらえられた。タコやカニ、ゴカイなどの多毛類が死骸を覆い、ウナギに似た細長いゲンゲ科の深海魚やネズミの尻尾のようなソコダラ科の深海魚が骨の脂肪をはぎ取り、骨食海洋虫のオセダックスが骨から脂質を摂っている。

完全に消滅するまで何十年も......

「ホエールフォール」は、大まかに3つのステージで遷移し、ステージに沿って様々な生物が出現する。腐肉食者が死骸の軟部組織を分解する「移動性腐肉食動物期」では、フグやサメ、ヌタウナギなどの腐肉食動物が骨から肉を剥ぎ、骨食海洋虫が骨から栄養分を消費する。

およそ1年かけて軟部組織が完全に消費されると、有機物が海底堆積物に浸透して、二枚貝や多毛類などの食物となる「栄養便乗者期」になる。「移動性腐肉食動物期」から「栄養便乗者期」までの約2年を経ると、微生物が大量に繁殖して厚い敷物のような「バクテリアマット」を形成し、骨に寄生して、骨食海洋虫が分解しきれなかった骨の中の脂質を分解し、硫黄を生成する「Sulfophilic期」に移行。

クジラの死骸が完全に消滅するまで何十年も、硫黄を消費する微生物や「バクテリアマット」を食べる軟体動物や甲殻類のすみかとなる。

しんかい6500も水深4204メートル地点で発見

「ホエールフォール」の動物相はこれまでにも数多く確認され、北東太平洋を中心に生物地理学などの解明もすすめられている。2013年には海洋研究開発機構(JAMSTEC)の有人潜水調査船「しんかい6500」がブラジル沖700キロメートルの南大西洋の水深4204メートル地点でクロミンククジラの死骸を中心とする「ホエールフォール」を発見した。この「ホエールフォール」では、ゴカイやコシオリエビ、巻貝、ホネクイハナムシなど、41種以上の生物が確認されている。

(参考記事)水深450メートル、メカジキに群がるサメ、そのサメを食べる大魚

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡

ワールド

MAGA派グリーン議員、来年1月の辞職表明 トラン

ワールド

アングル:動き出したECB次期執行部人事、多様性欠

ビジネス

米国株式市場=ダウ493ドル高、12月利下げ観測で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中