最新記事

ウクライナ

ウクライナ疑惑:ウクライナ側の事情とゼレンスキーの墓穴

2019年9月30日(月)12時00分
ブレンダン・コール

JONATHAN ERNST-REUTERS

<米政権を揺るがす新たなスキャンダルが発生しているが、電話会談の相手である元コメディアンのウクライナ新大統領が、トランプにへいこらして墓穴を掘ったのはなぜか>

今年7月の議会選で自身が率いる新党が圧勝し、トランプ米大統領から祝福の電話を受けたウクライナのゼレンスキー大統領だが、米情報当局者の内部告発をきっかけに電話の内容が公表された。思わぬ伏兵に足を取られた格好だ(本誌2019年10月8日号40ページに関連記事)。

トランプは電話でゼレンスキーにちょっとした頼み事をした。2020年の米大統領選で対戦する可能性が高い民主党のバイデン前副大統領に関し、「多くの人々が知りたがっている」真相を調べてほしいと言ったのだ。

ゼレンスキーの立場では、トランプに頼まれればノーとは言えない。2014年に南部のクリミア半島をロシアに奪われ、今も東部のドンバス地方で親ロシア派との戦闘が続くウクライナにとって、アメリカの軍事援助は頼みの綱だ。米政府と米議会の不興を買うわけにはいかない。

しかもトランプは電話の前に軍事援助の延期を決めていた。あからさまには言わないまでも、「協力しないなら援助はなしだ」とのニュアンスが読み取れる。

通話記録によると、ゼレンスキーは「あなたは全く正しい」とトランプに最大級の賛辞を送っていた。まさかこの会話が全世界に公開されるとは、夢にも思っていなかっただろう。

国内では70%前後の支持率を誇るゼレンスキー。ウクライナの世論は彼の釈明を受け入れてくれるだろうが、米議会ではそうはいかない。

国連総会出席のためニューヨークを訪れたゼレンスキーは9月25日にトランプと会談(写真)。7月の電話は友好的なもので、自分は圧力を受けていないと断言した。火消しに努めたつもりだろうが、これではトランプの肩を持ったことになり、米民主党に見捨てられかねない。

元コメディアンのゼレンスキーもこの状況では笑いも取れず。会談の模様にロシアのプーチン大統領だけが高笑いしたはずだ。

<本誌2019年10月8日号掲載>

【参考記事】トランプ弾劾調査の引き金になった「ウクライナ疑惑」のすべて
【参考記事】トランプがウクライナ大統領に調査を依頼したもう1つの会社クラウドストライクとは

20191008issue_cover200.jpg
※10月8日号(10月1日発売)は、「消費増税からマネーを守る 経済超入門」特集。消費税率アップで経済は悪化する? 年金減額で未来の暮らしはどうなる? 賃貸、分譲、戸建て......住宅に正解はある? 投資はそもそも万人がすべきもの? キャッシュレスはどう利用するのが正しい? 増税の今だからこそ知っておきたい経済知識を得られる特集です。


2024110512issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年11月5日/12日号(10月29日発売)は「米大統領選と日本経済」特集。トランプvsハリスの結果で日本の金利・為替・景気はここまで変わる[PLUS]日本政治と迷走の経済政策

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン大統領、中国はロシアの同盟国 台湾巡る立場

ビジネス

米金利先物、12月と来年の追加利下げを予想 FOM

ワールド

プーチン氏、ロシアと北朝鮮の合同軍事演習の可能性示

ビジネス

米国株式市場=S&Pとナスダック続伸、FRBが予想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ダンスする銀河」「宙に浮かぶ魔女の横顔」NASAが今週公開した「不気味で美しい」画像8選
  • 2
    米大統領選挙の「選挙人制度」は世界の笑い者── どうして始まりなぜ変えられないのか?
  • 3
    後ろの女性がやたらと近い...投票の列に並ぶ男性を困惑させた行為の「意外すぎる目的」とは? 動画が話題に
  • 4
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 5
    アメリカを「脱出」したいアメリカ人の割合が史上最…
  • 6
    「トイレにヘビ!」家の便器から現れた侵入者、その…
  • 7
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはど…
  • 8
    「ハリス大敗は当然の帰結」──米左派のバーニー・サ…
  • 9
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 10
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…
  • 1
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウクライナ軍と北朝鮮兵が初交戦
  • 2
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大人気」の動物、フィンランドで撮影に成功
  • 3
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄道計画が迷走中
  • 4
    「家族は見た目も、心も冷たい」と語る、ヘンリー王…
  • 5
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 6
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 7
    投票日直前、トランプの選挙集会に異変! 聴衆が激…
  • 8
    「ダンスする銀河」「宙に浮かぶ魔女の横顔」NASAが…
  • 9
    「常軌を逸している」 トランプ、選挙集会で見せた「…
  • 10
    どちらが勝っても日本に「逆風」か...トランプvsハリ…
  • 1
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 2
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 6
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 7
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 8
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 9
    予算オーバー、目的地に届かず中断...イギリス高速鉄…
  • 10
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中