最新記事

BOOKS

児童虐待は検証率「わずか5割」 どうすれば悲劇を断ち切れるのか

2019年9月19日(木)11時20分
印南敦史(作家、書評家)

だからこそ児童相談所だけを悪者にするのではなく(もちろん児童相談所にも改善すべき点があるということを踏まえたうえで、だが)、子供たちに関わる社会全体がこの問題について考える必要がある。

例えば上記の「検証率5割」という現実についても、自治体がなぜ関与できなかったのかということも含めて考え、改善策を模索するべきなのではないだろうか。

行政も社会も「答え」をそろそろ見出すべきだ


〈もうパパとママにいわれなくても しっかりとじぶんから きょうよりかもっともっと あしたはできるようにするから もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします
 ほんとうにもうおなじことはしません ゆるして きのうぜんぜんできてなかったこと これまでまいにちやってきたことをなおす
 これまでどんだけあほみたいにあそんだか あそぶってあほみたいだから やめるから もうぜったいぜったいやらないからね ぜったいやくそくします あしたのあさはぜったいにやるんだとおもって いっしょうけんめいやるぞ〉(138〜139ページより)

ご存じのとおり、昨年3月、東京都目黒区で両親から虐待を受けて亡くなった船戸結愛ちゃん(当時5歳)が遺した文章である。

かつて暮らしていた香川県で児相に一時保護され、自宅に戻ったのちに東京へ転居した結愛ちゃんは、充分な食事を与えられないまま、低栄養状態によって引き起こされた敗血症で世を去った。

9月17日に東京地裁で母親の船戸優里被告に懲役8年の有罪判決が言い渡されたが、事件から1年半を経てもなお、事件の衝撃は多くの人の心の中に淀んだままだ。

そして厚生労働省が、虐待リスクの見極めや情報共有に不備があったとする検証結果を公表してからわずか3カ月後の今年1月には、また虐待に関する事件報道が世を騒がせている。千葉県野田市で小学4年生の栗原心愛さん(当時10歳)が父親からの虐待を受け、自宅で死亡したという事件だ。

余談だが、私は少し前まで、神奈川のラジオ局「FMおだわら」で番組を持っていた。この父親は2018年7月に同局の番組に電話出演して沖縄県内のイベント情報について話していたというので、なおさらこの事件には生々しさを感じた記憶がある。


「お父さんにぼう力を受けています。夜中に起こされたり、起きているときにけられたりたたかれたりされています。先生、どうにかできませんか」(140ページより)

こうして助けを求める心愛さんを児童相談所はいったん保護したものの、約3カ月後には自宅に戻している。その直前に児相職員と対面した父親が、「父と娘を会わせない法的根拠はあるか」などと、心愛さんを戻すよう威迫的に要求したという報道も衝撃を与えた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、円は日銀の見通し引き下げ受

ビジネス

アップル、1─3月業績は予想上回る iPhoneに

ビジネス

アマゾン第1四半期、クラウド事業の売上高伸びが予想

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任し国連大使に指
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中