最新記事

ブレグジット

「合意なき離脱」ならイギリスは食料不足に見舞われる

UK Will Face Food Shortages From No Deal-Brexit

2019年8月9日(金)16時56分
カルヤン・クマル

食料不足への備え?鶏を追いかける英首相ボリス・ジョンソン(6月30日、ウェールズの農家で) Adrian Dennis/REUTERS

<「合意なき離脱」をすると何が困るのか。誰もあいまいにしか答えられなかったこの問いに、危機感を募らせる英食品業界が答えた>

ブレグジット(イギリスのEU離脱)に関して、もしボリス・ジョンソン首相が性急に「合意なき離脱」を強行すれば、数週間~数カ月にわたる食料不足に追い込まれると、英食品業界が警告した。イギリスのEU離脱期限は10月31日に迫っている。

食品と飲料のロビー団体である英国食料飲料連盟(FDF)によれば、EUとの間で離脱協定を結ぶことなく離脱すれば、大型トラックに積み込まれた傷みやすい農産物などの生鮮食品が、通関手続きのため港に留置されている間に腐ってしまい、食料が足りなくなるとしている。

FDFのティム・ライクロフト最高執行責任者(COO)は、「飢えに苦しむようなことはないはずだが、生鮮食品や、プロが使うような特別な食材に関しては不足が起きるだろう。事態は予断を許さない」と述べた。

離脱期限の10月末は、食料輸入が増える時期とも重なる。冬が近づき、クリスマスに向かうこの時期には、イギリスが輸入食品に頼る割合が高まるからだ。この時期の合意なき離脱は、混乱をさらに大きくする恐れがある。

秋は輸入依存度60%

イギリスに流通する食料のうち輸入品が占める割合は、11月初旬には60%に達する。新鮮な果物や野菜は日持ちが悪く、いつまでも保存しておくことはできない。離脱後は、イギリス向け貨物の出荷港であるフランスのカレーで通関手続きが実施されることになるが、これによってイギリス最大のドーバー港も大混乱に陥る可能性がある。

イギリスの食品業界は7000社を擁し、50万人の労働者が働く産業だ。アソシエイテッド・ブリティッシュ・フーズ(ABF)やテスコ、ネスレ、ペプシコといった大手ブランドも含まれている。

食品業界はブレグジットを、第二次大戦以来最大の危機と捉えている。

FDFのライクロフトによれば、合意なき離脱への対応にかかる食品業界のコストは、1週間あたり1億ポンド(約128億円)にも達するという。これには、倉庫スペースの確保や、流通業者の切り替え、通関が進まないことにより注文に失敗した場合のコストなどが含まれる。

FDFは対策として、イギリス政府に対し、公正競争に関する規約の適用免除を求めている。これは、合意なき離脱によって生じる危機的事態に対応し、できる限り安定した食料供給を確保するため、小売業者と供給業者の協力を促したいとの考えに基づいている。

ライクロフトによれば、食品業界は、たとえ公正競争規約に違反したとしても罰金を科されないよう、政府からの保証を求めているという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

スイス中銀、ゼロ金利を維持 米関税引き下げで経済見

ワールド

ドイツ経済、低成長続く見通し 財政拡大でも勢い限定

ワールド

小泉防衛相、ヘグセス米国防長官と12日に電話会談

ワールド

米FRB、26年に2回利下げ見通し 大手金融機関が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 8
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 9
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 10
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中