最新記事

アメリカ社会

今年の大卒は安定第一? それでもジェネレーションZが秘める大きな可能性

GENERATION Z GETS TO WORK

2019年7月25日(木)12時02分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

リスクの高そうな道を選んだ学生たちも、いざというときの安全策は用意している。コネティカット州のブリッジポート大学で音楽を専攻したカトレル・トンプソン・ニッキー(22)の夢は、音楽技師や作詞・作曲の仕事をすること。しかし用心のために大学院へ進み、音楽教育の修士号も取得しておくつもりだ。

「そりゃ誰だって、自分がハッピーになれる仕事をしたい。でも安定が必要だ」と、彼は言う。「自分のやりたいことにチャレンジするのはいつでもできる。でも、今から備えが必要なんだ。20年後、家族ができて責任が重くなってから焦っても遅い」

この世代の慎重さと現実主義には、いい面もある。なにしろZ世代は、近年まれに見る有能かつ生産的な世代になり得るからだ。実際、彼らはアメリカ史上最高に多様な世代であり、最も高学歴な世代でもある。

彼らは慎重かもしれないが、無気力ではない。社会的な問題意識が高く、自分たちは何か社会に貢献できると前向きに考えている。雇用者側も、この世代はミレニアル世代より使命感が強いとみている。だから、採用に当たっては会社の使命を強調する。製薬大手のメルクなら癌治療薬の開発、防衛産業のロッキード・マーティンなら国家の安全を守る、といった具合だ。

コンサルティング会社マッキンゼーは数年前、Z世代を採用する日に備えて大掛かりな調査を実施した。「彼らは希望に満ちていて、不公平や間違いがあれば自分たちで変えていけるとも信じていた」と、同社の採用担当ディレクターであるケイトリン・ストーホーグは言う。ひとたび安定した職を確保すればZ世代の探究心や冒険心に火が付くはずだと、雇用者側は期待している。またZ世代は就職後の技能研修にも前向きだという。

ZSD201907244.jpg

ベビーブーム世代 H. ARMSTRONG ROBERTSーCLASSICSTOCK/GETTY IMAGES


大企業は「安全策」にあらず

Z世代は先端テクノロジーを使いこなす真の「デジタル・ネイティブ」でもある。彼らはネット上での過度な情報共有の危険を、先行するミレニアル世代から学んでいる。ネット上に個人情報をさらすことにも慎重だ。

テキサス大学のバウダーズによれば、今はインスタグラムのアカウントを2つ持つのが常識。会社の同僚に見られてもいい公のものと、偽名で少数の友人とのみ共有する私的なものだ。後者は、「フェイク」と「インスタ」を組み合わせた造語で「フィンスタ」と呼ばれる。

ただし、Z世代の誰もが就職を選ぶとは限らない。大企業でも平気でリストラをする今の時代、「就職=安定」ではない。ならば自分で起業しようと考える若者もいる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英GDP、第1四半期は予想上回る前期比0.6%増 

ワールド

イスラエルの武器規定違反は認定せず、米国務省が近く

ワールド

プーチン大統領、ミシュスチン首相の続投提案 議会承

ビジネス

日経平均は反発、好決算物色が活発 朝高後は上げ幅縮
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必要な「プライベートジェット三昧」に非難の嵐

  • 3

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカネを取り戻せない」――水原一平の罪状認否を前に米大学教授が厳しい予測

  • 4

    休養学の医学博士が解説「お風呂・温泉の健康術」楽…

  • 5

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 6

    上半身裸の女性バックダンサーと「がっつりキス」...…

  • 7

    ロシア軍兵舎の不条理大量殺人、士気低下の果ての狂気

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 10

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中