最新記事

ネット

ウソが真実を駆逐? フェイクニュースに対抗する「ファクトチェック」に限界

2019年7月22日(月)12時00分

偏って広がる情報

欧州議会選挙では、極右が席数を増やしたものの、リベラルや環境政党も同様だったため、結局親EU派が議会運営に必要な勢力を維持した。

EUは、票を動かそうとする国をまたいでの大規模な活動は検出されなかったものの、より察知しづらい国内での意見操作に注意すべきだと警告した。

アルト・データ・アナリティクスは、1日に数十件の投稿をするような異常かつ活動過多なユーザーを分析し、どの政治コミュニティーが最も疑わしい投稿にさらされているかを予測した。

すると、わずか1%以下のユーザー(多くはポピュリスト政党や極右政党を支持していた)が、政治関連の投稿の10%を生産していることがわかった。

彼らはネットワークを反移民主義、反イスラム、そして反体制的メッセージであふれさせていた。この調査結果は、欧州議会選挙前に市民活動団体AVAAZや教育機関オックスフォード・インターネット・インスティテュートが行った調査結果の傾向とも合致する。

これらのメッセージを反証しようとするファクトチェッカーたちの努力が、影響を受けたコミュニティーに達することはほとんどなかった。

欧州議会選挙に向けての1か月間、ジャンクニュースがツイッターのトラフィックの21%を占めたポーランドでは、ファクトチェッカーたちが生産した情報は、主に与党「法と正義」に反対する人々の間で共有された。EU圏の主要言語7カ国語におけるこの割合の平均は4%だった。

約1年前に反体制主義政権が発足したイタリアや、極右政党ボックスが躍進しているスペインでも、ファクトチェッカーが発信した情報は極めて偏った広がり方を見せた。

イタリアで活動する7つのファクトチェック団体による投稿のリツイート、メンション、リプライの過半数(大半は移民に関する内容)は、中道左派の民主党に共感を覚えるユーザーたちによるものだった。

欧州議会選挙で第3位の勢力に躍進した、イタリアのサルビーニ副首相率いる右派政党「同盟」の支持者らに一定以上の足跡を残せた団体は、7つのうちわずか2つだった。

例を挙げると、イタリアのファクトチェッカー「オープンオンライン」の投稿には、民主党に好意的なユーザーから4594件のリツイート・メンション・リプライがあったのに対し、同盟に好意的なユーザーからはわずか387件の反応しか得られなかった。

主要メディア内に置かれていることが多いフランスのファクトチェック団体は、他よりよい結果を出していた。マクロン大統領についての嘘の情報などを反証する情報は、他国と比べ、多様なオンラインコミュニティーに満遍なく共有されていた。

ドイツでは、6つのファクトチェック団体のツイートに反応したのは、調査対象となったユーザーのわずか2.2%にとどまった。

アルト・データ・アナリティクスの調査には限界もある。オープンに手に入るツイッターのデータが、さまざまなプラットフォームにおけるオンライン上の会話の全体像を正確に反映するわけではないし、調査は5月の選挙とともに終了している。また、「偽情報」をどう定義するかという問題もある。

また、利用者の多いフェイスブックのデータも含まれていない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマスが人質遺体1体を返還、イスラエルが受領を確認

ビジネス

米国株式市場=主要3指数が連日最高値、米中貿易摩擦

ビジネス

NY外為市場=ドル軟調、米中懸念後退でリスク選好 

ワールド

UBS、米国で銀行免許を申請 実現ならスイス銀とし
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大ショック...ネットでは「ラッキーでは?」の声
  • 3
    「平均47秒」ヒトの集中力は過去20年で半減以下になっていた...「脳が壊れた」説に専門家の見解は?
  • 4
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 5
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 6
    中国のレアアース輸出規制の発動控え、大慌てになっ…
  • 7
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月2…
  • 8
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    「死んだゴキブリの上に...」新居に引っ越してきた住…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 5
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 10
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 1
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 2
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 9
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中