最新記事

セキュリティ

米中対立の発火はポーランドから ファーウェイ「スパイ」事件の全貌

2019年7月11日(木)12時32分

学生時代にポーランド留学

スタニスラウというポーランド名を持つ王容疑者とポーランドの付き合いは20年以上になる。

中国北部石家庄の寒村出身の王容疑者は、村始まって以来の大学進学者の1人で、名門の北京外語大でポーランド語を学んだ。

「正直言って、当時はポーランドについてほとんど知らなかった。両親と相談して、中国トップの外語大でポーランド語を勉強すれば、私の将来に向けた良い投資になると考えた」と、王容疑者は言う。

大学では熱心に勉強した。図書館に7冊あったポーランド語の辞書のうち、学生が借りられる4冊には、すべて貸出先に王容疑者の名前が記入されていたと、王容疑者の友人は話す。

在学中、王容疑者はポーランドの中部ウッチで語学を学ぶ奨学生4のうちの1人に選抜。2001年秋にポーランドへ渡り、10カ月勉強した。

いったん中国に戻って貿易関係の仕事に就いたが、2006年にグダニスの総領事館が通訳を探していていることを知って応募したところ、採用されたという。

王容疑者は、総領事館の中国人職員3人のうちの1人として4年半働いたという。ポーランド語が話せるのは王容疑者だけで、肩書は「文化アタッシェ」だったが、外交儀礼から事務、査証など幅広い業務をこなした。王容疑者は「雪かきや洗車もやった」としている。

また、総領事と共に「ポーランド北部をくまなく訪れ、地方当局者と多数の会議をこなした」という。

2011年1月に領事館を退職、新たな挑戦を求めて中国に帰国した。その2カ月後、ファーウェイからポーランドの広報担当職について接触があったという。ファーウェイは、王容疑者の北京の大学時代や、中国総領事館勤務時代の知り合いから連絡先を入手したようだ。

ファーウェイに採用された王容疑者は、2011年6月にポーランドへ戻った。同社はポーランドで、通信事業者への機材販売から事業を拡大し、新たな市場に自社技術を展開しようとしていた。王容疑者はその広報を任されることになった。

ポーランドの政府当局者やさまざまな機関、業界団体と関係を築き、「中国関係の機関と良好な関係を維持すること」が王容疑者の仕事に含まれた。中国大使館とも、定期的にコンタクトを持っていたという。

2017年には法人事業部の営業担当者となり、ポーランドの公共セクターに売り込みをはかった。政府機関や国有企業が主な売り先だったという。鉄道やネットワークのセキュリティ、サイバーセキュリティを研究する機関も含まれていた。

王容疑者は、ポーランド政府や電気通信業界に幅広い人脈があったが、仕事のためだったと説明する。「業界の重要な人物を知らなければ職務怠慢だ」と、王容疑者は言う。

彼と交流のあった人たちは、王容疑者は熱心に人脈を広げていたと話す。ワルシャワの中国大使館が主催するイベントには毎回のように参加し、中国やポーランドの祝日に、中国茶やカレンダーなどのギフトや、あいさつのメールを受け取ったと話す人もいた。ポーランドの元政府当局者は、王容疑者の流暢なポーランド語は、他の同僚と一線を画すものだったと話す。

王容疑者はロイターに、ファーウェイの5G事業には直接かかわっていなかったと説明している。

「社員がスパイ容疑に問われたとき、会社に他に何ができるだろう。会社はやらなければならないことをやったままでで、理解できる」と、自身の解雇を振り返った。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インド、米通商代表と16日にニューデリーで貿易交渉

ビジネス

コアウィーブ、売れ残りクラウド容量をエヌビディアが

ワールド

米軍、ベネズエラからの麻薬密売船攻撃 3人殺害=ト

ビジネス

米アルファベット、時価総額が初の3兆ドル突破 AI
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中