最新記事

テクノロジー

ブロックチェーン技術で無国籍状態のロヒンギャ難民を救え

2019年7月10日(水)17時10分
プリーティ・ジャー(ジャーナリスト)

身分証のないロヒンギャは受け入れ国で闇経済に頼らざるを得ない ADNAN ABIDIーREUTERS

<身分証がないイスラム系少数民族にデジタルIDを与え金融や教育、医療サービスを利用可能に>

マレーシアの首都クアラルンプールにあるビルの2階。壁の3つの時計はそれぞれマレーシア、サウジアラビア、そしてミャンマー(ビルマ)西部ラカイン州の現地時間を示している。

ここはミャンマー政府の弾圧を逃れたイスラム系少数民族ロヒンギャが運営するTV局、ロヒンギャ・ビジョン(Rビジョン)の拠点だ。12年の設立以来、彼らの故郷ラカイン州のロヒンギャの危機に焦点を当てており、近年は増え続ける難民の問題に注目。ニュースルームは世界各地のロヒンギャの結束と士気高揚を目指す活動の拠点でもある。

マレーシア在住のロヒンギャのまとめ役であるムハンマド・ヌールは17年、ロヒンギャ・プロジェクトを開始。国籍を持たず公的なID(身分証)のないロヒンギャが受け入れ国の金融制度を利用できない状況を解決するのが狙いだ。「改ざん困難で、非中央集権型の、何者も停止できないブロックチェーンでデジタルIDをつくりたい」

仏教徒が多数派のミャンマーで、イスラム系のロヒンギャは政府に迫害され続け、1982年制定の国籍法によって大半が無国籍状態に陥っている。

ヌールらは(政府など中央当局ではなくコンピューターネットワークに情報を保管する)ブロックチェーン技術を利用。手始めにマレーシア、バングラデシュ、サウジアラビアの闇経済に頼らざるを得ない同胞難民たちにデジタルIDを提供し、金融、教育、医療などのサービスを使えるようにするという。

報酬をトークンで支払い

過去数年、ブロックチェーン技術で人道上の問題を解決しようと、マイクロソフトやアクセンチュアなどのグローバル企業からスタートアップまで、多くの企業がデジタルIDに参入。「収集された難民のデータを独裁国家が悪用する恐れがある」と懸念する専門家もいる。

ロヒンギャ・プロジェクトはロヒンギャ1000人を対象とする第1弾のデジタルIDカード試用計画を19年末まで延期した。「デジタルIDとブロックチェーンは非常に急速に進化している。セキュリティーとプライバシー保護の要件を全て満たす必要がある。確実にデータが安全でなければならない」と、ヌールは語る。

同プロジェクトは今年1月、複数のNGOによるデジタルID推進計画の参加団体に選ばれた。7月にはマレーシアで、社会貢献活動をしたロヒンギャの報酬をトークンで支払う新たな試みを実施。トークンはラップトップPCなどと交換できるが現状では換金はできないため、「ブロックチェーンを利用しているが仮想通貨ではない」と、ヌールは強調する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

関税の影響「予想より軽微」、利下げにつながる可能性

ワールド

イラン、カタールの米空軍基地をミサイル攻撃 米側に

ビジネス

米総合PMI、6月は52.8に低下 製造業の投入価

ワールド

対イラン米攻撃の「合法性なし」と仏大統領、政権交代
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 10
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中