最新記事

サイバー戦争

新時代サイバー戦争は暴走する

A New Age of Cyberwar

2019年7月3日(水)18時10分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

GANGIS KHANーISTOCK PHOTO

<トランプが米サイバー軍に与えた裁量が「第5の戦場」をこれまでになく予測不可能に変える>

アメリカとロシアとサイバー攻撃、という3つの言葉が並ぶと、「ああ、ロシアがアメリカの選挙に介入した話か」と、思いがちだ。ドナルド・トランプ米大統領が、16年の米大統領選中に、「ロシアよ、(対立候補であるヒラリー・クリントンの)3万通の消えたメールを見つけてくれ」と冗談とも本気ともつかぬ呼び掛けをしたのは有名な話だ。

ところが今、アメリカがロシアに対するサイバー攻撃を強化しているという。6月15日付ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)は、米サイバー軍がロシアの電力網に不正侵入し、マルウエアを埋め込んでいると報じた。もちろんロシアもアメリカの電力網に侵入している。

一体これは何を意味するのか。1つはっきりしているのは、今やサイバー空間は、陸、海、空、宇宙と並ぶ主戦場の1つになったことだ。ただしそこで行われる戦いは、従来の戦争とは違って目に見えない上に、作戦の機密レベルが極めて高いために、実際に何が起きているかを知る人間は一握りしかいない。このため、予告もなく突然、一気に激化する危険がある。

この25年間に、多くの国の基幹インフラ(電力網、金融システム、運輸システム、水道網など)は、コンピューターネットワークを通じて制御されるようになってきた。そしてアメリカやロシア、中国、イスラエルなどのサイバー大国は、こうした重要インフラに互いに不正侵入して、マルウエアやウイルスを埋め込むことに成功してきた。相手の機先を制して優位に立ちたければ、これらのウイルスを起動すればいいだけだ。

サイバー戦争にはほかにも気掛かりな側面がある。それはその計画や作戦実行が、文民政治指導者の監視や承認を受けずに進められるようになっていることだ。これはトランプが18年夏、「国家安全保障大統領覚書第13号」に署名して、米サイバー軍に独自の裁量でサイバー攻撃を開始できる権限を与えたためだ。

トランプへの説明はなし

ジョージ・W・ブッシュ元大統領やバラク・オバマ前大統領の時代は、サイバー兵器はまだ新しい技術であり、その影響は予測不可能で、制御不能になり得るという認識から、慎重に方針が練られていた。だが今は、こうした懸念は払拭されたと米政府は考えているらしい。

その結果、米サイバー軍は今、以前ほど制約を感じることなく攻撃開始の決断を下せるようになった。それどころか、NYTによると、トランプは米軍の最高司令官であるにもかかわらず、これらの作戦について十分な説明を受けていない。

それはトランプが作戦を撤回したり、外国政府高官にうっかり漏らしたりしてしまうのではないかと、国防総省や情報機関の高官らが恐れているためだという。実際、ロシアの電力網に不正侵入する作戦の詳細は、トランプに一切説明されていないと、NYTは報じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フジHD、株式買い増しはTOBでと旧村上系から通知

ワールド

北京市、住宅購入規制さらに緩和 需要喚起へ

ビジネス

26年度の超長期国債17年ぶり水準に減額、10年債

ワールド

フランス、米を非難 ブルトン元欧州委員へのビザ発給
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 8
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中