最新記事

人類

「人類はゴビ砂漠を横断してシベリアまで拡散した」シミュレーション結果

2019年5月31日(金)18時20分
松岡由希子

人類はゴビ砂漠を横断した? livetalent-iStock

<ドイツと中国の研究チームによって、気候や地形といった環境障壁をもとに人類の移動ルートが変化するのかどうか、シミュレーションが行われた>

人類は、12万5000年前から1万2000年前までの後期更新世に、アフリカ大陸からユーラシア大陸へ広く拡散していったと考えられている。

その経路については、インドから東南アジアを経由してシベリアまで北上する「南ルート」が有力視されてきた一方、アルタイ山脈やゴビ砂漠を通る中央アジアから北アジアの「北ルート」はこれまであまり注目されてこなかった。しかしこのほど、「北ルート」が人類の拡散にとって重要な経路のひとつであった可能性を示すシミュレーション結果が明らかとなった。

最小コスト経路分析によるシミュレーション

独マックス・プランク研究所と中国科学院古脊椎動物・古人類研究所の共同研究チームは、氷河時代の氷期と間氷期における気象記録や地理的特徴を盛り込んだ地理情報システム(GIS)を開発し、最小コスト経路分析によって、気候や地形といった環境障壁をもとに人類の移動ルートが変化するのかどうか、シミュレーションを行った。

その結果、氷期には砂漠地帯を避けて北側に弧を描く進路を選ばざるを得ない一方、間氷期は、ゴビ砂漠を横断するものを含め、いくつかの経路がありうることが示された。一連の研究成果は、2019年5月29日、オープンアクセスジャーナル「プロスワン」で公開されている。

original0531a.jpg

研究論文の共同著者であるマックス・プランク研究所のパトリック・ロバーツ博士は、このシミュレーション結果について「これらの経路は、更新世の人類が移動した本物のルートではない」と強調する一方、「従来見過ごされてきたアジア地域での人類の存在や移動などについて、我々はもっと探るべきであることを示唆している」と主張する。

アジアでの人類の拡散の調査がさらに必要

実際、ロシアのデニソワ洞窟やチベット高原にある白石崖溶洞でデニソワ人の化石が発見されるなど、今日では人類の居住が難しいとされる地域において、かつて人類が存在した証がいくつも見つかっている。

アジアでの人類の拡散の時期や速さを解明することは、文化や技術がどのように広がり、発展したのかを解明するうえでも不可欠であることから、これらのシミュレーション結果が中央アジアや北アジアでの新たな調査やフィードワークを促すきっかけになるのではないかと期待が寄せられている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

再送-米ワーナー、パラマウントの買収案を拒否 ネト

ビジネス

独IFO業況指数、12月は予想外に低下 来年前半も

ビジネス

EU、炭素国境調整措置を強化へ 草案を正式発表

ワールド

インドネシア中銀、3会合連続金利据え置き ルピア支
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 7
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 8
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中