最新記事

米外交

対イラン開戦論の危うい見通し

War with Iran Would Be Worse Than Iraq

2019年5月22日(水)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

magw190522_Iraq.jpg

イラクのフセイン政権は孤立していたから簡単に倒せた 28 GORAN TOMASEVIC-REUTERS

もう1つの大きな違いは、フセインには侵攻する米軍に攻撃を加える同盟勢力が国外にいなかったことだ。イラク軍は米軍と一対一で戦うしかなかった。しかしイランは国外で手を結ぶ武装勢力を使い、ゲリラ的な戦いを挑むことができる。世界の石油輸送の4分の1以上を担うとされるホルムズ海峡の封鎖という手もある。

イランの息のかかった武装勢力が、イスラエルや中東に駐留する米軍をミサイルで攻撃する可能性もある。アメリカの軍事通信や諜報機関、ミサイル制御のネットワーク、さらには米国内の通信インフラにサイバー攻撃を仕掛ける可能性もある。

アメリカにもサイバー戦の能力はあるが、実戦の経験はない。膠着状態になれば何が起きるか分からず、双方共に大きなダメージを受けかねない。

トランプの目的は何か

侵攻当時、ジョージ.W.ブッシュ米大統領とドナルド・ラムズフェルド米国防長官はイラクに総勢15万の兵力を送った。フセインを追い出してイラク国軍を倒すには十分な数だったが、周知のとおり、その後の事態を安定させるには足りなかった。現在、米国防総省はイランからの攻撃に備えて12万の米兵を中東に派遣する計画を練っているとされる。だが事態がエスカレートすれば、とても12万では足りないだろう。

それだけではない。トランプ政権がイランに戦争を仕掛けたとしても、伝統的な同盟国の協力は得られない。基地や情報面の支援、兵力の提供などを期待できるのはサウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)、イスラエルくらいだ。

つまり、対イラク戦で政治的に重要な役割を果たした欧州諸国の協力は期待できない。しかもアラブのスンニ派とシオニスト、アメリカが結託してシーア派に敵対するという構図が鮮明になり、この地域の宗派対立が一段と激化するだろう。

イランへの締め付けを強める理由について、トランプ政権の説明は一貫性を欠く。マイク・ポンペオ米国務長官によれば、これはイランを新たな核交渉に応じさせるための「最大の圧力」戦略の一部だ。一方でジョン・ボルトン大統領補佐官(国家安全保障担当)は、あからさまに(必要なら武力による)イランの体制転覆を唱えている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米中マドリード協議、2日目へ 貿易・TikTok議

ビジネス

米FTCがグーグルとアマゾン調査、検索広告慣行巡り

ビジネス

中国新築住宅価格、8月も下落続く 追加政策支援に期

ワールド

北朝鮮、核兵器と通常兵力を同時に推進 金総書記が党
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中