最新記事

米外交

対イラン開戦論の危うい見通し

War with Iran Would Be Worse Than Iraq

2019年5月22日(水)19時00分
フレッド・カプラン(スレート誌コラムニスト)

米軍は中東に空母エイブラハム・リンカーンと爆撃機に加えて迎撃ミサイルと揚陸艦を派遣 US Navy-REUTERS

<無策のまま核合意離脱を決めたトランプ政権――イラク戦争を上回る複雑な激戦への備えはない>

イラン情勢が一触即発だって? 気にするな、事態の収拾は簡単だ――。アメリカにはそう考える人がいるらしい。

例えば、かつて北朝鮮の指導者・金正恩(キム・ジョンウン)がしたように、イランの指導者もドナルド・トランプ米大統領に「素敵な親書」を送ればいい。そうすれば(米朝関係が険悪だった頃に金が使った表現を借りれば)ホワイトハウスの「老いぼれ」は喜々として話し合いに応じるはずだ。

もし戦争になっても心配はないと考える人もいる。「2撃」で勝てる、「第1撃と仕上げの1撃」で十分だ。そう豪語したのはアーカンソー州選出の共和党上院議員で国防長官志望のトム・コットンだ。

残念ながら、どちらも救い難い無知の産物だ。前者はイランの政治を知らないし、後者はイランの地理も歴史も分かっていない。

まずは親書。確かにトランプは直接対話に乗り気で、電話を待っていると語ったことがあり、仲介役のスイス政府に電話番号を伝えてもいる。だがイランのハサン・ロウハニ大統領も最高指導者のアリ・ハメネイ師も、そんなことはしないはずだ。

なぜか。イランには選挙も政党もあるが、真の民主主義国ではない。それでも一定の開放性は保たれており、北朝鮮とは大違いだ。北朝鮮は絶対的な独裁国家であり、国民は外の世界から隔絶されている。だから金は好きなように振る舞える。方針を急に変えても、誰も文句は言わず、うっかり口を開けば殺される。北朝鮮はそんな国だ。

ハメネイはどうか。どんな形であれ米大統領と接触したことはない。そもそも「アメリカは悪魔」だというレトリックを放棄すれば、最高評議会に居並ぶ保守派の支持を失ってしまう。

オバマ前米政権との交渉に応じたことも、核開発計画の放棄につながりかねない合意を受け入れたことも、イラン側の関係者にとっては途方もなく大きな賭けだったはずだ。

イラン国民の目がある

そんなイランがどうにか核合意の条件を守っていた(らしい)のに、トランプは一方的に核合意からの離脱を宣言した。こんな信用できないアメリカ人を相手に、ハメネイが二度と賭けに出ることはないだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、シリア外相と会談 暫定大統領をサミット

ワールド

オーストラリアに対する米関税は10%に据え置き、豪

ワールド

米との19%関税合意、タイの競争力強化につながる=

ビジネス

テスラ、サンフランシスコで配車サービス開始 自動運
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから送られてきた「悪夢の光景」に女性戦慄 「這いずり回る姿に衝撃...」
  • 4
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 5
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 6
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 7
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 8
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 9
    街中に濁流がなだれ込む...30人以上の死者を出した中…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの習慣で脳が目覚める「セロ活」生活のすすめ
  • 3
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 4
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
  • 5
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中