最新記事

教育

10%の食塩水1kg作るのに必要な塩と水は? 大学生が「%」を分からない絶望的な日本

2019年5月13日(月)15時30分
芳沢 光雄 : 桜美林大学リベラルアーツ学群教授 *東洋経済オンラインからの転載

これまで専任と非常勤を含めて10の大学で文系・理系合わせて約1万5000人の大学生を指導し、また小・中・高の約200校で出前授業を行い、さらに、大学での就職委員長を務めていたとき、夜間に「就活の算数」ボランティア授業も行っていた。そのような事情もあって、最近の「%」の問題は肌で感じていた。

そして、「数学が苦手な生徒は、答を当てるマークシート式問題だけ解ければよい」という困った指導が広く行われていることに対し、ある学生が「数学を苦手としている者でも、本心は時間をかけてでも内容をよく理解したいと思っているのです」と熱く語ったことが忘れられなかった。

そこで今年4月に、『「%」が分からない大学生 日本の数学教育の致命的欠陥』(光文社新書)を出版した次第である。

「%」の問題をさまざまな角度から検討した結果、大きく分けると2つの原因にたどり着く。

まず1つめ、次の4通りの表現は同じ意味である。


① ~の...に対する割合は○%
② ...に対する~の割合は○%
③ ...の○%は~
④ ~は...の○%

したがって、「元にする量」と「比べられる量」を国語的にしっかり理解する必要がある。にもかかわらず、それを理解できていない大学生が増えているのだ。

もう1つは、教える側が主に理解の遅い子どもたちに対して、理解を無視して「やり方」の暗記で済ませてしまう指導をしていることだ。

「速さ・時間・距離」の問題を、丸の中に「は・じ・き」なるものを書いて「やり方」の暗記だけで解く方法があり、それに類似した「く・も・わ」(比べられる量・元にする量・割合)なるものまである。奇妙な誤解答を書く学生に限って、答案の隅に「は・じ・き」や「く・も・わ」の図を書いている場合が目立つ。

理解を無視して答を当てる解法は正しいのか

そればかりでなく学校教育で習うさまざまな内容に関しても、理解を無視して答だけ当てる安易な解法が蔓延している。一例を挙げると、高校数学の積分に関する問題で、放物線と直線で囲まれた図形の面積は交点のx座標さえ求めれば、積分を一切使わずに答を出せる「1/6公式」という(奇妙奇天烈な名の)公式まである。

このような理解を無視して暗記に頼る学びは、途中のプロセスはいい加減でも答だけ機械で採点するマークシート式問題ならば、「結果オーライ」である。しかし、来るAI(人工知能)時代にはマッチしていない。

計算機は、記憶や計算スピードの点では人間よりはるかに優れている一方で、相手の表情から相手の心をつかんで話したり、いろいろ試行錯誤して斬新なアイデアを創造したりすることは苦手である。AI時代には、人間と計算機が互いによきパートナーとして協力する関係を築くことが大切なのだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米上院共和党、EVの新車税額控除を9月末に廃止する

ワールド

米上院、大統領の対イラン軍事力行使権限を制限する法

ビジネス

バフェット氏、過去最高のバークシャー株60億ドル分

ビジネス

トランプ大統領、「利下げしない候補者は任命しない」
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影してみると...意外な正体に、悲しみと称賛が広がる
  • 3
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急所」とは
  • 4
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 5
    キャサリン妃の「大人キュート」18選...ファッション…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    ロシア人にとっての「最大の敵国」、意外な1位は? …
  • 8
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    「水面付近に大群」「1匹でもパニックなのに...」カ…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 5
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 6
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 7
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 8
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中