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アメリカ社会

アベンジャーズ大ヒットを支えたもう一つの要因 「薬物使用俳優」に寛容な米国社会

2019年5月8日(水)11時40分
猿渡 由紀(L.A.在住映画ジャーナリスト) *東洋経済オンラインからの転載

1990年代末に、コカイン所持で何度か逮捕されたチャーリー・シーンは、きちんと更生しないまま、2000年代にコメディー番組「Two and a Half Men」でキャリアのピークを謳歌するも、12カ月の間に3度も依存症更生プログラムのため撮影を停止するなど、迷惑をかけ続けた。それでも製作側は我慢し続けてくれたのに、シーンが反省しないばかりか、揚げ句に番組のクリエーターの悪口を公にぶちまけたため、ついにクビになっている。

人気コメディードラマ「フレンズ」で6人いる主役の1人、チャンドラーを演じたマシュー・ペリーも、放映中、薬物依存症で更生施設に入所したり、その影響で体重が極端に増減したりしたが、番組にはそのまま出演し続けた。

ゴールデンタイムに放映される子どもも見る国民的人気番組だったが、追い出されなかったのだ。アメリカではとりあえず時間どおりに現場に来て仕事をこなせるなら回復を見守るというのが、基本的な姿勢なのだろう。番組の視聴者からも、そのことに対する異議は聞かれていない。

それでも、ペリーは、「フレンズ」のシーズンの合間に映画を撮影した折、途中で依存症が悪化して治療のためにロケ地を抜け、ロサンゼルスに戻るということをしている。それによって、製作予算にも影響が出ているはずだ。

ダウニー・Jr.も、ドラマ「アリーmy Love」出演中に薬物がらみの警察沙汰で出演を続けられなくなったことがあった。だが、そのどちらのときも、シーンが「Two and a Half Men 」を急きょクビになったときも、損害賠償はどうなるのか、などという話題は出ていない。おそらく、契約書ではあらゆる場合が想定され、対応が決められているのだろう。

薬物によって亡くなった場合どうする?

撮影中にODで死んでしまったという場合も、はたしてどうやって撮影を続けるのか、という物理的な部分の話は出ても、この人のせいで出る損失をどうするか、という話はまず聞かない。実際にそのような問題で頭を抱える人はいるのだろうが、誰かが亡くなったときにそんな話を出すのは不謹慎だという配慮と思われる。

2008年に急性薬物中毒で亡くなったヒース・レジャーの主演作『Dr. パルナサスの鏡』は、レジャーの友人だったジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が代役を務めることで完成した。3人はギャラをレジャーの娘に寄付している。

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