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インタビュー

「移民は敵ではない、ブラック労働に苦しむ日本人が手を繋ぐべき相手だ」

2019年4月18日(木)13時30分
小暮聡子(本誌記者)

――望月さんは、外国人労働者をこれからもたくさん受け入れていったほうがいいという立場なのか。

(熟慮の上で)その質問は答えるのがとても難しいのだが、僕が考えているのは、「労働者として受け入れる」ということだけを前提に考えるといろいろと問題が起きるのは経験上明らかだ、ということだ。

取材をしているなかで、30年ほど前にペルーから来て日本でずっと働いているが日本語を勉強する機会がなかった、と言う声を聞くこともあった。この社会で長く暮らしていく前提で日本語をしっかり学ぶ機会を保障するとか、子供たちが学校にちゃんと行けてそこでいじめられないとか、病院などさまざまな場所で最低限の権利を保障するとか、しかるべき処遇を受けられるように社会的インフラを整えていく――そういうことをせずに、「工場の中だけの存在」というとりあえずの考えで受け入れていくと、いろいろと問題が起きてくる。

日本の経験としても分かっているし、諸外国の経験としても明らかなので、その点が準備できていることを前提として受け入れたほうがいい。社会の側がいろいろと準備しなければならないことがあるが、1万人受け入れるのと100万人受け入れるのでは準備しなければいけない量は100倍違う。

そういう意味で、社会が受け入れられる量というのは、単純にどれだけ人手が足りていないかという話だけではなく、受け入れ側のリソースや支援面の準備がどれくらい出来ているかにも大きく関わると思う。今はそこがとても脆弱なので、しっかり整えていくという前提の下で受け入れていくべきだと思っている。

――「第7次雇用対策基本計画」には、外国人労働者の年金・医療など社会保障の負担や、外国人を実際に受け入れる自治体の負担が増えることへの懸念が透けて見える。この理由で移民受け入れに反対する、という人に会ったら何と言う?

日本に来て働いてくれている外国の人も普通に税金を払っているし、働いて貢献していたりもするので、日本人と同じ権利が保障されない筋合いは全くない。よく、生活保護を受けまくっているという言われ方もするが、全体として大きな差があるわけではない。そもそも労働者として受け入れている割合が多いわけだから、日本人に比べて労働者としての比率も高く、税金を納めている人の比率が少ないということもないだろう。

年金や健康保険など社会保障の多くについて――生活保護は違うのだが――制度的には内外人平等の原則に基づいてすでに国籍条項が撤廃されている。日本は81年に難民条約を批准し、その後社会保障については外国人であろうと平等にしようという流れが進んだ。つまり、実質的なアクセスさえ確保されていれば、外国人も年金や健康保険などを使えるということになっている。

社会保障については、着目しなければいけないのは制度面だけでなく、人々の「嫌だな」みたいな気持ちというか、困難に思う意識もそうだろう。貧しい外国人が日本の社会保障を食い物にしている、という現実に即していないイメージがまだあるので、そこはアプローチしないといけないところだ。それは事実ではないと伝えていくことが必要だと思う。

とても重要なのは、「日本人」と「外国人」という別々の存在がいるということではなく、この社会に長く暮らしていく人という意味ではどちらも同じだと考えることだ。

例えば、日本語ができないから仕事のレベルが上がらないとか給料が上がらないというのは、基礎的な権利の部分が剥奪されているのと変わらない。機会に対するアクセスがないという状況だ。

日本人に対しては、そこの平等性を担保すべく公教育を提供して15歳までみんなで勉強する。僕らもみんな、国語という形で日本語を教わってきた。外国人だけが日本語を勉強するわけではなくて、日本人も日本語を勉強して日本の労働市場の中で「ヨーイドン」でスタートを切るという、一応そういうフィクションになっている。

これは大事なフィクションだ。だが外国人に対しては、生活の中で自分でどうにかしてくれという形になっていて、そういう機会を実質的な形では保障されずにずっと暮らしている人たちがいる。

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