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ニューズウィークが見た「平成」1989-2019

平成の日本:「新しい不平等」の受け入れと、無関心の仮面の下に見たもの

What Heisei Meant to Me

2019年4月12日(金)17時20分
デーナ・ルイス(ジャーナリスト)

結婚の儀に臨まれる皇太子と雅子妃(1993年6月9日) REUTERS

<私が追い掛けた平成の日本は、昭和の神話が崩壊して変革が押し寄せた時代。そして私は今、日本の未来に困惑している――元本誌アメリカ人記者の述懐>

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※ニューズウィーク日本版SPECIAL ISSUE 「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」が好評発売中。平成の天皇像、オウム真理教と日本の病巣、ダイアナと雅子妃の本当の違い、崩れゆく大蔵支配の構図、相撲に見るニッポン、世界が伝えたコイズミ、ジャパン・アズ・ナンバースリー、東日本大震災と日本人の行方、宮崎駿が世界に残した遺産......。世界はこの国をどう報じてきたか。31年間の膨大な記事から厳選した、時代を超えて読み継がれる「平成ニッポン」の総集編です。
(この記事は「ニューズウィークが見た『平成』1989-2019」収録の書き下ろしコラムの1本)

◇ ◇ ◇

私がニューズウィーク日本版の記者になったのは1990 年(平成2年)1月のこと。80 年代半ば(つまり昭和の終わり)にも米ニューズウィークの東京支局の記者として、アメリカの読者に向けてバブルに沸く日本の記事を書いていたが、今度は日本版編集部のアメリカ人記者として、「外側から内側を見る」ことになったわけだ。

当時、日本版のオフィスは東京・麹町近くのたばこくさいビルの一角にあった。私たちはバブル末期の狂乱と、平成と呼ばれた日本の変革の時代を記録した。

1993年には、皇太子と現在の雅子妃の婚約に関する私のコラムが日本の読者をいら立たせた。輝かしいキャリアを捨てて困難な環境に飛び込むことは、彼女にとって厳しい選択だっただろうと、当たり前のことを書いたのだが。

編集部の電話が鳴り続け、コスモポリタン誌が私にインタビューをした。周りの男性が真実の愛だと主張する一方、女性は未来の皇太子妃に同情した。ネットの掲示板で私は一足先にソーシャルメディアの洗礼を受け、後に2ちゃんねるで「極左ババア」と炎上も経験することになる。

平成は、世界に対する日本のイメージをリセットした時代だ。日本経済の猛烈な勢いが止まり、一億総中流という昭和の神話が崩壊した。昭和の終わりにディスコが流行したが、平成のお立ち台の主役は貪欲さだ。平成では貪欲さは美徳とされ、ホリエモンがロールモデルになった。

平均的な労働者とトップエグゼクティブの貧富の差は、欧米並みに広がった。本誌は2006年3月に格差社会の特集を組み、私にとって最も印象深い仕事の1つとなった。

平成の幕が下りようとしている今、誰もが「新しい不平等」を当たり前に受け入れているようだ。引きこもりやパワハラなど、二極化の時代に私が書いてきたさまざまなテーマも、今ではどこにでもある現実だ。

私は本誌を辞める前に書いた記事で、神奈川県厚木市近郊の搾取工場で働くペルー人を取り上げた。無保険者で、子供が通う公立学校にはスペイン語を話せる教師はおらず、日本語の補習授業もなかった。外国人労働者の底辺層を懸念する、早めの警告だったと言えるだろう。

誤解しないでほしい。私が「平成の記者」として取材した全ての記事が、気の重くなる話というわけではない。

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