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元号

元号は天皇が決めるべきだ

2019年4月5日(金)18時00分
広岡裕児(在仏ジャーナリスト)

終戦後旧皇室典範の廃止で元号の法的根拠はなくなり、1979年に元号法で復活した。そのとき、明治と同じ一世一元とされた。現実的に、100年たって、一世一元に国民は慣れていたし、第一、昔のように不定期にコロコロと変わられては、現代生活では使用できない。元号という伝統を守るためにも明治の修正のままにするのはいたしかたなかろう。だが、同時に閣議決定すると決められたのはちょっとおかしい。

そもそも、元号は天皇が決めるものだった。江戸時代に、幕府が最終的に裁可するようになり、変更させた例もあるが、あくまでも基本は天皇(時には上皇の意見のときもあったが)が、幕府は追認するというのが原則であった。伝統を重んじるならば天皇が決めるべきである。

報道によれば、決定後、宮内庁を通じて今上陛下も践祚をひかえた皇太子殿下に知らされ、承諾されたという。だが、立憲制度を守る陛下も殿下も否定することは絶対ないのである。また政令も御名御璽があって初めて有効になるが、これも同じ理由で陛下が拒否することはありえない。選択の自由がないのだから陛下・殿下が選んだとはいえない。

天皇に選択の自由を

天皇が裁定しなくなったのには、別の側面もある。一世一元は、統治者が時間を支配するという意味があり、それを天皇が決めるということは天皇が統治者であると宣言することであった。だから、現在の日本国憲法下で、国民主権となったので統治者たるは国民が決める。だが、それならば、決めるのは内閣ではなく国会であろう。国会議員は国民の代表であり、国会が国権の最高機関であるということは憲法に明記してある。内閣は統治行政機関にすぎない。

私は、国会が超党派の特別委員会をつくって候補を絞って、天皇が最終的に決定するというのがいいのではないかと思う。いまや天皇は国民総意にもとづく日本国と日本国民統合の象徴である。元号制定を利用して天皇を戦前のような存在に担ぎ上げようとする者があれば憲法違反として厳しく取り締まればいい。

古来の日本の伝統にも合致している。おまけに現在の慣習では元号は天皇の諡号となり、歴史の中に永遠に刻まれる。天皇の決意願望もまた反映されてしかるべきではないか。

元号は大嘗祭などと違って、宗教行事ではない。もともと唐風の流行によるものである。だから政教分離にも抵触しない。

いまや元号は、かつてのように天皇が時間を支配するのではなく、天皇と国民が、あるいは国民同士が時間を共有するツールになっている。現在を生きる国民と過去からの歴史文化の象徴である天皇が一緒になって未来を切り開くのである。
 
hirooka-prof-1.jpg[執筆者]
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。


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※4月9日号(4月2日発売)は「日本人が知らない 品格の英語」特集。グロービッシュも「3語で伝わる」も現場では役に立たない。言語学研究に基づいた本当に通じる英語の学習法とは? ロッシェル・カップ(経営コンサルタント)「日本人がよく使うお粗末な表現」、マーク・ピーターセン(ロングセラー『日本人の英語』著者、明治大学名誉教授)「日本人の英語が上手くならない理由」も収録。

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