最新記事

日本社会

忘れるな! 4月施行の「高プロ制度」が日本の格差を拡大させる

2019年4月11日(木)17時00分
松野 弘(社会学者・現代社会総合研究所所長)

もともと、この「ワーキングプア」(working poor)という言葉はアメリカの保健福祉省の貧困ガイドライン(単身者で1万2140ドル、4人家族で2万5100ドル〔2018年〕)より以下の所得の貧困層を示す指標として登場してきたものである。具体的には、「ワーキングプア」とは、「1年間のうち27週以上、労働市場で活動(就業・求職活動)したが貧困世帯に属する個人(学生を除く)」と定義されている。

日本では一般に、非正規の労働者で、年収が200万円以下の人たちがこれに該当するとされている。

こうした新しい貧困層が急激に増加したのは、前述のように、2006年の「労働者派遣法」改正によって、非正規雇用の派遣労働者に対する規制が緩和されたことに起因している。

つまり、企業収益を上げるため、企業は最大のコスト要因の1つである人件費の削減に手をつけたということになる。正規社員の解雇は法的には厳しいので、正規社員の採用を減らし、非正規社員を増やすことで、景気後退期に容易に雇用調整することが可能になったのである。

そして ワーキングプアは高学歴層にも及んできた

戦後日本の経済成長は日本人の勤勉な労働によるものとされ、終身雇用を採用している日本の企業はアメリカなどの先進国から高く評価されていた。つまり、日本の企業は従業員という「人材」を財産として生産性の向上を図り、経営陣と従業員が一体となって会社のために奉仕してきたからこそ、今日の経済発展がもたらされたのである。

それにもかかわらず、使い捨て可能な非正規の労働者を増やすことで、企業の収益を上げていくという。こうした経営者側の考え方は企業倫理、企業の社会性などの観点からみても間違っているし、こうしたことをやり続けると、いずれは産業も企業も衰退していくのは必須だ。

こうした「ワーキングプア」現象は最近では、大学院出のいわゆる「オーバードクター」や司法試験や公認会計士という超難関国家資格試験の合格者などにもみられ、「高学歴ワーキングプア」と呼ばれている。

一般的には、高学歴をもった人材は高い報酬で雇用されるのが常であるが、大学院の博士課程を修了した博士学位取得者や博士学位候補者(博士課程単位取得満期退学者)はすぐれた専門家の卵にもかかわらず、企業の研究機関や大学への専任教員としての就職がきわめて困難となってきている。

若者から中高年に至るまで、長時間労働と低収入で苦しんでいる「ワーキングプア」が数多く存在しているのが実態だが、政府や企業経営者たちはそうした事態を改善するための抜本的な改革を行おうとしない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とブラジル、宇宙技術の共同研究所を建設 科学分

ワールド

米関税収入、代替手段で再現可能 最高裁が違法判断で

ワールド

国連人権事務所は「サバイバルモード」、資金大幅削減

ワールド

米、ICCに設立条約の修正要求、トランプ氏らの訴追
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア空軍の専門家。NATO軍のプロフェッショナルな対応と大違い
  • 2
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 3
    「何これ」「気持ち悪い」ソファの下で繁殖する「謎の物体」の姿にSNS震撼...驚くべき「正体」とは?
  • 4
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 5
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキン…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「正直すぎる」「私もそうだった...」初めて牡蠣を食…
  • 8
    「安全装置は全て破壊されていた...」監視役を失った…
  • 9
    イギリスは「監視」、日本は「記録」...防犯カメラの…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中