最新記事

BOOKS

承認欲求は「最強」の欲求... では、バイトテロはなぜ起こるのか?

2019年2月28日(木)16時05分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<「承認欲求」と聞けば、世間を騒がせる迷惑行為が思い起こされる。実際、パワハラや不祥事、過労死など社会のさまざまな問題に関連しているのだと、『「承認欲求」の呪縛』の著者は言う。では、なぜそうなるのか、どうすればいいのか>

「承認欲求」という言葉から連想するものは、いわゆる「バイトテロ」のように、非常識な動画をSNSにアップするような若者だったり、あるいは「自分が自分が!」と目立ちたがる「かまってちゃん」のたぐいかもしれない。

早い話が彼らは承認欲求が強すぎ、しかも勘違いしてしまうからこそ、無軌道な行動に出るわけである。そしてそれが、「承認欲求ありすぎで迷惑」という印象につながってしまうということだ。

だがこの言葉は、必ずしも悪い意味でのみ使われるわけではない。事実、20年以上前から承認欲求に注目してきたという『「承認欲求」の呪縛』(太田 肇著、新潮新書)の著者は、このように解説している。


 有名な心理学者、A・H・マズローの欲求階層説で知られているように、承認欲求は本来、人間の正常な欲求の一つである。マズローによれば承認欲求は「尊厳・自尊の欲求」とも呼ばれ、他人から認められたい、自分が価値のある存在だと認めたいという欲求である(マズロー 一九七一など)。承認欲求があるからこそ人間は努力するし、健全に成長していくといっても過言ではない。また、ほかの人と協力したり、助け合ったりする動機も承認欲求から生まれることが多い。(「まえがき」より)

ところが承認欲求には、これまで指摘されてきたものとはまったく異質な問題があり、それがわが国の特殊性と密接に結びついていることが分かってきたのだという。


 スポーツ界で次々と発覚した、暴力やパワハラ。
 社会問題化している、イジメや引きこもり。
 官僚による公文書改ざんや事実の隠蔽。
 日本を代表する企業で続発する、検査データの捏造や不正会計などの不祥事。
 電通事件をきっかけに、あらためて深刻さが浮き彫りになった過労自殺や過労死。
 掛け声だけで、なかなか進まない「働き方改革」。(「まえがき」より)

意外なことに、これらの問題の背後には「承認欲求の呪縛」が隠れているというのである。それが水面下でじわじわと増殖し、いよいよわが国の組織や社会に重大な影響をもたらすようになったというのだ。

著者は、基本的に承認欲求は「最強」の欲求だと記している。人は認められることでその欲求を満たすことができ、さまざまな報酬を得ることも可能で、関連するさまざまな欲求も充足できるからだ。あるいは尊敬や信頼といった、好ましい対人関係を構築することもできる。

ところが現実には、些細なことがきっかけとなって、獲得した報酬や築き上げた人間関係にとらわれるようになってしまう。しかも、そこから逃げることは難しい。いわばそれが「承認欲求の呪縛」だということだ。

――とだけ説明してもピンとこないかもしれないので、ひとつ例を挙げてみることにしよう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

フジHD、旧村上系が大規模買付取り下げ 外部資本導

ビジネス

中国レアアース規制、必要な部材1年分程度確保できて

ワールド

トルコCPI、1月は前月比+4.84% 予想上回る

ワールド

インド、米国から石油・防衛品・航空機など購入へ=当
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗り物から「勝手に退出」する客の映像にSNS批判殺到
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れるアメリカ」に向き合う「日本の戦略」とは?
  • 4
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 7
    中国政府に転んだ「反逆のアーティスト」艾未未の正体
  • 8
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」…
  • 9
    エプスタイン文書追加公開...ラトニック商務長官、ケ…
  • 10
    最長45日も潜伏か...世界が警戒する「ニパウイルス」…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中