最新記事

環境汚染,特集プラスチック危機

プラスチック汚染の元凶「人魚の涙」を知っていますか?

Nurdles and Mermaid Tears—The Major Source of Plastic Pollution You've Never Heard Of

2019年2月19日(火)14時27分
クレア・グウィネット(英スタッフォードシャー大学准教授)

海を漂ううちに壊れて小さくなった「人魚の涙」 Lush/YouTube

<色とりどりに煌めくビーズのような「ナードル」には有毒物質がくっつきやすいが、海洋生物は魚の卵と間違って食べてしまう>

「ナードル」をご存知だろうか? 響きはかわいいかもしれないが、海洋環境に大きなダメージをもたらす物質だ。別名は「人魚の涙」。小さくてキラキラとした粒々で、その多くが製品に姿を変えることなく海に漂い、表面に有害物質を吸着させて海洋生物の餌になる。

ナードルは、使い捨てのペットボトルからテレビに至るまで、大部分のプラスチック製品に欠かせない原料だ。これらの粒は普通で1~5ミリ、なかにはナノメートル単位で目に見えないものもある。その発生源は2つ。1つは、プラスチック製品の原料として人工的に小さく作られた「一次マイクロプラスチック」、もう1つは、捨てられたプラスチック製品が、海に漂ううちに壊れて細かくなり、砂浜などに打ち寄せられた「二次マイクロプラスチック」だ。

サイズが小さいため原材料として輸送しやすく、工場に着けば溶かされて型に流し込まれ、さまざまな製品になる。だが、残念なことに輸送や加工の際の管理が行き届かずにあちこちでこぼれたナードルは、排管から河川や海に流れ出てしまう。

海洋生物に及ぼす害を考えると、「人魚の涙」はナードルにふさわしいあだ名だ。小さくて丸くて色とりどりのナードルは魚の卵と間違えやすく、海洋生物にとって魅力的な食べ物に見えるのだ。だがこの「食べ物」には毒がある。

海からナードルを回収する研究者たち。化粧品や歯磨き粉にもナードルは含まれている、と警告する自然派化粧品LUSH FRESHの動画


市民参加を要するナードル狩り

ナードルはサイズに対して表面積が大きく高分子組成のため、海水中の残留性有機汚染物質(POP)が表面に付着しやすい。これらの有害物質はその後、それを食べた生物の組織に付着し、残留する。ナードルと一緒に何年も居座りつづけることもある。

人間に有害な微生物がナードルに住みつく可能性もある。スコットランドのイースト・ロージアンにある複数の海水浴場で行われた調査では、調査対象となった5カ所の海水浴場すべてに、食中毒の原因となる大腸菌で覆われたナードルがあった。ナードルは有害で、ビーチの清掃を行う人や科学的調査を行う人も、素手で触らないよう言われているほど。それを考えると、夏にビーチで日光浴をするというのが魅力的には思えなくなってくる。

では海や海岸にはどれぐらいのナードルがあるのだろうか。イギリスではプラスチック業界によって自然界に放出されるナードルが、年間530億個にものぼると推定されている。プラスチックボトル8800万本がつくれる量だ。それなのにナードルは、プラスチック汚染に関する議論の中で取り上げられることが少ない。

だが幸運なことに、ナードルとナードルが海洋汚染に及ぼす影響についての啓発活動を行う組織は複数ある。フィドラ(スコットランドを拠点に環境問題に取り組む慈善団体)と英海洋保護協会が立ち上げたプログラム「ザ・グレート・グローバル・ナードル・ハント」は、人々に「市民科学者」になって世界各地にどれだけのナードルがあるかデータ収集を行うよう呼びかけている。

「ナードル・ハント」のフェイスブック投稿


データ収集は流出ナードルの主たる発生源を特定するのに役立ち、問題に対処することも可能になる。自然環境に存在するナードルはあまりに多く、その情報を収集するには大勢の人手が必要だ。「ナードル・ハント」の活動は毎年2月に10日間にわたって展開される。

市民科学者たちが見つけたナードル汚染の場所と規模は、サイトの地図上に表示される。2012年以降、市民科学者たちが調査を行ったビーチは6大陸18カ国の計1610カ所にのぼり、活動には60を超える組織も携わっている。

内陸の土壌も汚染する

スタッフォードシャー大学マイクロプラスチック・法医学用化学繊維研究グループでは2019年にこの活動に参加して、リバプールのハイタウン・ビーチにどれだけのナードルがあるかを調査した。その結果、1平方メートルあたり平均139.8個のナードルがあると推定された。およそ約1キロに及ぶ満潮時の海岸線に、約14万個のナードルが存在する計算になる。

市民科学者になって地元のビーチでナードルのデータ収集を行いたいという人に役立つヒントを幾つかご紹介しよう。オンラインのナードル識別ガイドを確認し、ポリスチレン粒やBB弾、化石などをナードルと間違えないようにしておくといい。

事故でこぼしてしまったナードルを近隣住民が草をかき分けて除去しようとするが


ビーチで調査をする際は、海草やその他の海洋堆積物をチェックしよう――これらは大きな「ナードル捕獲網」のような役割を果たしている。データを収集し終わったら、その結果を専門機関に提出して、汚染対策に役立てられるようにしよう。

ナードルは海だけでなく、川や湖、水から離れた内陸も含めて多くの環境で発見されている。私が働くスタッフォードシャー大学のキャンパスの土壌からも発見された。だからナードルを探しに行こう――ただし手袋をお忘れなく。

(翻訳:森美歩)

Claire Gwinnett, Associate Professor in Forensic and Crime Science, Staffordshire University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.

ニューズウィーク日本版 日本時代劇の挑戦
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月9日号(12月2日発売)は「日本時代劇の挑戦」特集。『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』 ……世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』/岡田准一 ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP30、米国離脱でも多国間主義の機能を示す=国

ワールド

米議員の株取引禁止する法案、超党派グループが採決を

ビジネス

米FRB、コロナ禍対応による損失局面が転換か 繰延

ワールド

米、貿易休戦維持のため中国国家安全省への制裁計画中
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 3
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国」はどこ?
  • 4
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 7
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 8
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 9
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中