最新記事

映画

話題作『ローマ』が映し出す、矛盾だらけのメキシコ

The Politics of Experience

2019年2月8日(金)19時10分
ロバート・バレンシア、アンナ・メンタ

ネットフリックスが『ローマ』の配信を開始したのは18年12月14日。メキシコ大統領に就任したばかりのアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールが、14年の事件の行方不明者について調査を求めると宣言した約2週間後のことだ。

家事労働者に当たった光

本作は「社会や階級、人種をめぐる私自身の罪悪感の表れだと思う」と、キュアロンはバラエティー紙に語っている。「私は白人の中流階級のメキシコ人少年で、守られた立場にいた」

自分を育てて社会の実情を教えてくれた女性、リボ・ロドリゲスをモデルにした役を演じられる人物を求めて、キュアロンは1年以上を費やした。アパリシオに巡り会ったのは、3000人をオーディションした後だ。

現在25歳のアパリシオは当時、キュアロンが誰かも知らなかった。「アルフォンソは優しく私を導いてくれた。クレオの出産や、海で子供を救う感情的に苦しいシーンに備えるために助けてくれた」

自らの役にはすぐに共感できた。「クレオは私そのもの。教師の私も子供が大好きで、ときどき過保護になってしまう」。リボ・ロドリゲスに会ったときには、同じ家事労働者だった自分の母親を思い出したという。

当初はメキシコやアメリカの家事労働者の境遇にスポットライトを当てる意図はなかったと、プロデューサーのロドリゲスは話す。だが結果的にそうなったことはキュアロンと共に喜んでおり、この問題が忘れられることのないよう、できる限りのことをしていくつもりだ。

ゴールデングローブ賞授賞式に、キュアロンは全米家庭内労働者連合(NDWA)の代表者を同伴した。NDWAは昨年11月、米連邦議会の新会期に「家事労働者の権利章典」を共同提出すると発表。成立すれば、米国内の「計200万人の家事労働者に対する保護を拡大」できると、ロドリゲスは指摘する。

「彼女たちの存在と役割が認められるのは素晴らしいことだ。政治的に重要な時期にあるメキシコ国内の多くの人にとっても意味がある」

magc190208-roma02.jpg

CARLOS SOMONTE/NETFLIX

上から目線の先住民観?

コーパス・クリスティの虐殺の最中に産気づいたクレオは雇い主のコネのおかげで、病院で行列に並ばずに済む。しかし誰もが彼女ほど幸運ではない。

メキシコ労働社会保障省が17年12月に発表した報告書によると、同国の家事労働者の98%は今も医療保険の対象外で、保育や無料の医薬品、年金に手が届かず、日給は8ドル未満だ。メキシコ国家差別防止協議会の15年の報告では、調査対象の家事労働者1243人のうち33%が先住民族出身者として差別を受けていると回答。25%が独自の言語で話すことを雇い主に禁じられていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

エーザイ、26年3月期の営業益微増の見通し 市場予

ワールド

豪4月就業者数、予想大きく上回る 来週の利下げ予想

ワールド

APEC、米関税の影響警告 今年の域内輸出「ほとん

ワールド

ブラジル、元建て国債発行を検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:2029年 火星の旅
特集:2029年 火星の旅
2025年5月20日号(5/13発売)

トランプが「2029年の火星に到着」を宣言。アメリカが「赤い惑星」に自給自足型の都市を築く日

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 2
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 3
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因は農薬と地下水か?【最新研究】
  • 4
    トランプ「薬価引き下げ」大統領令でも、なぜか製薬…
  • 5
    宇宙から「潮の香り」がしていた...「奇妙な惑星」に…
  • 6
    サメによる「攻撃」増加の原因は「インフルエンサー…
  • 7
    iPhone泥棒から届いた「Apple風SMS」...見抜いた被害…
  • 8
    終始カメラを避ける「謎ムーブ」...24歳年下恋人とメ…
  • 9
    対中関税引き下げに騙されるな...能無しトランプの場…
  • 10
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新研究が示す運動との相乗効果
  • 3
    5月の満月が「フラワームーン」と呼ばれる理由とは?
  • 4
    ゴルフ場の近隣住民に「パーキンソン病」多発...原因…
  • 5
    カヤック中の女性がワニに襲われ死亡...現場動画に映…
  • 6
    母「iPhone買ったの!」→娘が見た「違和感の正体」に…
  • 7
    シャーロット王女の「親指グッ」が話題に...弟ルイ王…
  • 8
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 9
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 10
    ロシア機「Su-30」が一瞬で塵に...海上ドローンで戦…
  • 1
    心臓専門医が「絶対に食べない」と断言する「10の食品」とは?...理想は「1825年の食事」
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 5
    健康は「何を食べないか」次第...寿命を延ばす「5つ…
  • 6
    加齢による「筋肉量の減少」をどう防ぐのか?...最新…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中