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話題作『ローマ』が映し出す、矛盾だらけのメキシコ

The Politics of Experience

2019年2月8日(金)19時10分
ロバート・バレンシア、アンナ・メンタ

一方、ロペス・オブラドール政権の誕生以来、いくつかの進展もみられる。メキシコ国家最高司法裁判所は昨年12月、家事労働者200万人超を社会保障の対象とする事業の策定を承認。ロペス・オブラドールは同月、家庭内労働者の国際労働基準であるILO(国際労働機関)の「家事労働者条約」を批准すると宣言した。

ロペス・オブラドールは就任当初から、先住民にスポットライトを当てることに力を入れてきた。大統領就任式の日も、国会議事堂で宣誓した後、広大な憲法広場(ソカロ)に移動して、無数の人々が見守る前で先住民から浄化の儀式を受けた。

とはいえ、ロペス・オブラドールが楽観的な公約をきちんと守れると考えるメキシコ人は決して多くない。世論調査会社デ・ラス・エラス・デモテクニアが12月半ばに行った調査によると、彼が大統領として成功すると考えるメキシコ人は30%しかいなかった。

ロペス・オブラドールは、大統領就任後3年間は新たな借金も増税もしないと約束したが、公約を実現するためには増税が避けられないと、OECD(経済協力開発機構)は見る。例えばロペス・オブラドールは、80億ドルを投じて南部の遺跡を結ぶ「マヤ観光鉄道」を建設する計画を公約の1つにしてきた。

「平等と進歩に向けた改革、とりわけ先住民のための改革が実現することを心から願っている」とアパリシオは言う。「でも夢を語るだけでは意味がない。具体的な行動が伴わなければ」

先住民は政治にほとんど影響力を持たず、貧困に苦しむコミュニティーも少なくない。根深い人種差別も存在する。16年のバズフィードの調べによると、メキシコで最も売れている雑誌15誌の表紙に先住民が登場することはめったにない。

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CARLOS SOMONTE/ASSOULINE PUBLISHING

それだけにアパリシオにとっては、先住民クレオを主人公に据えているだけでも、『ローマ』は意義深く感じられる。「メキシコでは、私のように肌の黒い人間がファッション誌の表紙を飾るのは重大な出来事だ」。彼女は12月にヴォーグ誌メキシコ版の表紙を飾った。

だが、キュアロンが特権的な白人の目線で先住民を描いていると批判する声もある。ニューヨーカー誌の映画評論家リチャード・ブロディは、『ローマ』は「アッパーミドル階級の知的映画人が労働者階級を描くとき陥りがちなステレオタイプ」にあふれていると酷評した。この手の映画に出てくる労働者は、「口数が少なくて天使のように純粋無垢で、自己表現をする能力も意思もないことが美徳のように描かれる」というのだ。

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