最新記事

中南米

ベネズエラ国民のためにトランプ政権が今すべきこと

Venezuela’s Finest Hour

2019年2月8日(金)16時30分
アリエル・コーエン(アトランティック・カウンシル上級研究員)

1月29日にマドゥロは軍事演習に出席 CARLOS BARRIA-REUTERS

<2人の大統領が対立する緊迫のベネズエラ情勢――アメリカに求められるのはロシアをにらんだ行動だ>

勝つのは独裁的なチャベス主義者の政権か、弾圧されてきた民主派の野党陣営か――。ベネズエラの権力闘争が決着を迎える日は近いかもしれない。

野党陣営を率いるフアン・グアイド国会議長は1月23日、「暫定大統領」就任を宣言した。ニコラス・マドゥロ大統領から権力を奪取することに成功すれば、その影響はベネズエラ政界ばかりか国際的なエネルギー市場に及び、米ロの対立激化を引き起こすことにもなるはずだ。

論点になっているのは、マドゥロによる統治継続の正当性だ。マドゥロは17年8月、新憲法を起草するとして制憲議会を設置し、野党が多数派の国会から立法権を奪った。昨年5月に実施した大統領選では、野党がボイコットし、国会と中南米諸国の大半が正当性を認めないなかで再選を宣言。今年1月10日に2期目をスタートさせた。

グアイドが暫定大統領として政権を率い、自由で公正な選挙を通じて民主主義への移行を実現できるよう、あらゆる政治的ツールを迅速かつ断固として駆使する構えを取る。これこそ、アメリカがすべきことだ。

グアイドの宣言の直後、ドナルド・トランプ米大統領はグアイドを暫定大統領として承認するとの声明を発表した。称賛に値する決断だが、さらに多くが求められている。次の一歩として外交や情報活動、場合によっては秘密工作に踏み切るべきだ。

エネルギー市場への影響

確かに、こうした「賭け」のリスクは大きい。失敗すれば、飢餓や医薬品不足による疫病の蔓延、社会不安の渦中にあるベネズエラで暴力がエスカレートする恐れもある。ブラディミル・パドリノ・ロペス国防相は先日、軍部はマドゥロ政権を支持すると表明した。軍がマドゥロ側に付いたのはグアイドにとって大きな打撃であり、アメリカの支援を妨げる障害になる。

反米左派のマドゥロ政権の存続は、米政権と中南米の中道右派勢力の敗北を意味するだけではない。アメリカが失敗すれば、エネルギー市場は極めて不安定になり、ベネズエラが長らく手を組むロシアの強硬措置を招くことになりかねない。

アメリカやヨーロッパ、さらにベネズエラの民主主義回復支援のため米州14カ国が17年8月に設立したリマ・グループが支持するにもかかわらず、グアイドが権限を握れなければ、欧米はアメリカの「裏庭」である中南米でさえ政策を実現できないと解釈されるだろう。ロシアや中国がそこに戦略的弱点を見いだしたとしても不思議はない。

近年は石油生産も製油能力も落ち込んでいるとはいえ、ベネズエラは指折りの産油国だ。原油確認埋蔵量は世界一の3030億バレル強。ベネズエラ石油公社(PDVSA)の日産量は120万バレルに激減しているが、エネルギー市場での存在感は大きい。

驚くことに、PDVSAは石油製品分野におけるアメリカの主要なパートナーでもある。年間150億ドル規模に上る両国の2国間貿易のうち、大部分を占めるのが石油だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は続伸、景気敏感株上昇 TOPIXは最高値

ワールド

米公民権運動指導者ジャクソン師、進行性核上性麻痺で

ワールド

ベトナムのハイテク優遇措置改革、サムスンなど韓国企

ビジネス

午後3時のドルは154円後半で底堅い、円売り継続 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「麻薬密輸ボート」爆撃の瞬間を公開...米軍がカリブ…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中