ベネズエラ国民のためにトランプ政権が今すべきこと
Venezuela’s Finest Hour
経済危機のせいで、ベネズエラは自国の原油を国内で精製することができず、「帝国主義者のヤンキー」から軽油やガソリンを輸入するしかない。一方、アメリカの旧来の製油所は国内のシェール層にある軽質スイート原油を精製できないため、重質原油が必須だ。
昨年のアメリカの対ベネズエラ輸入総額は110億ドル。その大半を占めたのが重質原油で、輸入量は1日当たり50万バレルに上った。キーストーンXLパイプライン建設計画の却下によってカナダから原油を大量輸入する道が閉ざされた今、近隣国で残る選択肢はほぼベネズエラだけだ。ベネズエラのエネルギー部門への制裁が必要な状況とはいえ、実行に踏み切ればアメリカも無傷ではいられない。
派兵だけは避けるべき
ベネズエラで大きな地政学的・経済的利権を維持するロシアは、権益を守るために行動を起こす可能性が高い。中南米諸国をはじめ、国際社会がアメリカと共にグアイドを暫定大統領として承認する意向を示す一方で、ロシア政府高官はアメリカのグアイド支持を「クーデター同様」だと非難している。
建前はともかく、ロシアとベネズエラには強い経済関係がある。ロシアは16~17年、ベネズエラに170億ドル以上を融資(中国の対ベネズエラ投資額は計560億ドル)。ロシアの政府系石油会社ロスネフチはPDVSAにとって最大の投資家だ。
両国は緊密な外交関係も結んでいる。ロシアにとってその価値は大きい。ベネズエラは親ロの南オセチア独立を承認した数少ない主要国であり、ロシアによるクリミア併合も認めている。しかも大量の原油を有するとあって、ロシアにとってキューバよりはるかに重要な国だ。
では、ロシア政府は友人マドゥロのために何ができるのか。中南米で直接的な軍事介入を行うことはないだろうが、キューバを通じた介入や武器売却、安全保障援助はあり得る。
もっともロシアはアメリカへの対抗措置として、カリブ海まで艦船を派遣する必要などない。ウクライナ情勢を悪化させたり、大規模サイバー攻撃を仕掛けたり、ベネズエラへのキューバ軍部隊の輸送を担うだけで十分だ。
ベラルーシ情勢への波及も気掛かりだ。同国とロシアの隣国関係は今や史上最悪。ロシア側の最終目標はベラルーシの併合とみられる。ロシアのヨーロッパ方面への拡大もアメリカを揺さぶり、ベネズエラから目を背けさせる手段となる。
ロシアの圧力があろうと、アメリカはベネズエラ国民の味方であり続けなければならない。ただし、通常部隊の派遣だけは回避すべきだ。米軍を送り込めば、マドゥロが唱える帝国主義者の陰謀論の証拠とされ、野党勢力の正当性を徹底的に損なうことになるかもしれない。
トランプ政権は世界各地で米軍撤退を決めているが、中南米の国を親ロ派(または親中派)に譲り渡すまねは許されない。メキシコを除けば、中南米の政治は急進左派からの揺り戻し期にあるようだ。アメリカは迅速に、決断力を持って賢く行動する必要がある。今を逃せば、ベネズエラ国民が正義を手にする機会は当分訪れないかもしれないのだから。
<本誌2019年02月12日号掲載>
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