最新記事

子供

小学校がHIV感染児童14人を強制退学 インドネシア、感染恐れる父兄が学校を脅迫

2019年2月16日(土)17時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

何も悪いことをしていないのに小学校から強制退学させられた子供たち (c)KOMPASTV / YouTube

<正しい知識がないばかりに、罪のない子供たちが教育の機会を奪われる事態がジャワ島の小学校で起きた。だが、同じことは日本で起きても不思議はない>

インドネシア・ジャワ島中部の都市スラカルタ(ソロ)にある公立小学校で、小学校の統廃合で同校に転向してきた14人の児童がHIV(ヒト免疫不全ウイルス)への感染が明らかになったために、在校生の父兄から退学を求める声が上がり、学校側がこれに屈する形で全員を退学処分としていたことが明らかになった。

現地紙「ジャワ・ポス」などが2月11日に伝えたところによると、中部ジャワ州スラカルタのラウェヤン地区にある公立小学校で、学校の統廃合によって転校してきた児童の1年生から4年生の中に14人のHIV感染児童が含まれていることが2019年1月初めの教職員と在校児童の父兄による会議の場で報告された。

これを受けて在校児童の父兄らは一斉に反発し「自分たちの子供への感染の懸念」を理由に受け入れ拒否の姿勢を固め、学校側に「(14人の)転校か退学を求める」事態に発展した。

地元紙などによると、父兄らは「もし要求が受け入れられない場合は、多くの児童が一斉に転校する」と学校側を"脅した"という。

こうした事態に直面した学校側は市の教育関連部局などとも協議を重ねて、最終的に14人の児童を強制的に退学させる処分に踏み切った。当該小学校のカルウィ校長は地元紙に対して「こうした動きが出るまでHIV感染の児童でも受け入れるべきだと考えた。なぜなら誰しもが教育を受ける権利があるからだ。しかし他に選択肢がなかった」と苦渋の決断であるとの考えを示した。

市教育庁は退学児童に新たな施設準備

スラカルタ市教育庁のエティ・レトノワティさんは「退学させられた児童14人のために、新たな教育施設を準備するようにしたい。大切なことは14人が教育を受け続けられるように行政としては努力することである」としている。

市側は自宅での通信教育のような「ホームスクーリング」の方法もあることについては「ホームスクーリングは問題の解決にはならない。HIV感染児童も他の子供と同様に普通の教育施設で勉強させることが重要だ」として、なんらかの形で学校で授業を受けさせる考えを示している。

一方、HIV感染児童を支援してきた地元のNGO関係者は「在校児童の親の心理には理解できる面もある。インドネシアでは過去にも同様の問題があったからだ」としたうえで「しかしこうした差別は前例があるからという理由で見逃していいわけではない」と指摘。近年頻発しているLGBTなどの性的少数者や民族的少数者、宗教的少数者への差別意識や人権侵害事件と並んで問題提起と同時に警鐘を鳴らしている。

インドネシアでは2018年10月にはスマトラ島北スマトラ州の小学校が、入学を控えた孤児3人がHIV感染児童であることを理由に就学を拒否する事案も起きている。「ボイス・オブ・アメリカ」によるとこれも在校児童の父兄の間から「他の子供への感染の心配があり容認できない」との声が高まった結果とされている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハマス、60日間の一時停戦案を承認 人質・囚人交換

ワールド

米ウクライナ首脳会談開始、安全保証巡り協議へとトラ

ワールド

ロシア、ウクライナへのNATO軍派遣を拒否=外務省

ビジネス

トランプ政権、インテル株10%取得巡り協議中と報道
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する現実とMetaのルカンらが示す6つの原則【note限定公開記事】
  • 4
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 7
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 8
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 9
    恐怖体験...飛行機内で隣の客から「ハラスメント」を…
  • 10
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 9
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中