最新記事

メディア

企画に合うコメントを求めていないか? 在日コリアンの生活史が教えてくれること

2019年1月28日(月)16時15分
碓氷連太郎

Chainarong Prasertthai-iStock.

<収容所は「ものすごい面白い」「めっちゃええ」と話す伯母――。何が「本当」なのか、わからなくなった人に気づきを与えてくれる1冊『家(チベ)の歴史を書く』>

取材をする際にいつも気にしてしまうことがある。それは相手の語りの中から、自分が求めている言葉をうまく拾えるかどうかということだ。

毎回お題を決め、それに沿った話を聞き取っていく。悲しい事件や嬉しいこと、人生に関することなど内容はその時その時で変わるが、当事者の言葉を聞き出し、1つの記事の形に仕上げていく。

誰に取材をするか。事前に調べた候補から選ぶ決め手になるのは、いつも「この人はこういう経験をしているから、きっとこんなことを言うだろう」というカンによる確信だ。実際多くの場合、「そうそう、こういう話が聞きたかった」と手応えを得るが、時にまるで予想していなかった展開になることもある。そうなったら果たして相手の言葉を捨てるのか、それとも趣旨に合う形に誘導していくのか。

そんな疑問を抱えている折、『家(チベ)の歴史を書く』(筑摩書房)と出合った。

著者で神戸大学大学院講師の朴沙羅さんは在日コリアンの父と、日本人の母親を持つ。父方の一家は済州島から大阪にやってきたのだが、朴さんは彼らが「どうやら面白いらしい」ことを、ずっと知っていたという。彼らはどうやって大阪に来て、そのあとどう暮らしてきたか。伯父2名と伯母2名から聞き取り、生活史をまとめた一冊だ。朴さんは親戚たちと過ごした日々のことを、こう振り返っている。


私が大学を卒業する頃まで、父の親戚たちは年に最低三回(正月・祖母の法事・祖父の法事)は集まっていた。いわゆる「祭祀(チェサ)」と言われるものだ。そこでは、伯父や伯母が口角泡を飛ばして、時に他人には理解できないような内容で争う。最終的には殴り合いになることも少なくなかった。

花見をしていても殴り合いになる親戚たちを傍に、弁当から好物のハンバーグを取り出して食べながら「けんかしたらいけないんだよー」と言っていた子供時代の朴さんは、漠然と親戚たちは「1945年までのどこかの時点で日本に来たんだろう」と思っていた。しかし高校時代に伯母から、植民地支配されていた時代に日本に来たものの一度韓国に戻ったこと、1948年に「済州島四・三事件」が起きて再移住したことを聞き、興味を持った。だがその後はすっかり忘れていたり、悩んだりとだいぶ回り道をしてから、インタビューを進めていったと明かす。

四・三事件について語らない伯母

「済州島四・三事件」とは1948年4月3日、アメリカの傀儡の李承晩政権により済州島内で虐殺が起きた事件のこと。1947年から1954年までの間に全島人口の10分の1にあたる2万人から3万人が亡くなったと推定され、韓国の歴史を語る上で外せない悲劇だ。

済州島出身であれば、事件のトラウマを抱えている人は少なくない。実際、朴さんの伯母の配偶者である李延奎(イ・ヨンギュ)さんと伯父の朴誠奎(・ソンギュ)さんは、四・三事件の直前とさなかに、日本に逃げてきたことを告白している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、マイアミ開催のサウジFII会議出席へ=

ワールド

米中が麻薬対策情報交換会合、「実践的な協力推進」で

ビジネス

キリンHD、ヘルスサイエンス事業で初黒字化 時価総

ワールド

台湾の2500億ドル対米投資、企業が「自発的に判断
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベルの「若見え」な女性の写真にSNS震撼
  • 4
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    あなたの隣に「軍事用ヒト型ロボット」が来る日
  • 7
    「ショックすぎる...」眉毛サロンで「衝撃的な大失敗…
  • 8
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 9
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 10
    【独自取材】「氷上のシルクロード」を目指す中国、…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 5
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 6
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 9
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中