最新記事

サイエンス

キノコと細菌の共生が電気を生む

The New Bionic Mushroom

2018年12月11日(火)17時20分
ハナ・オズボーン(サイエンス担当)

マッシュルーム上に回路をつくり、バクテリアが光合成で放出する電子を集めて発電する。そんなユニークな仕組みの有効性が実証された ZAKHAROVA_NATALIA/ISTOCKPHOTO

<ナノ素材で特殊な加工を施したバイオニックマッシュルームを使って微弱電流を起こす実験に米チームが成功>

ナノ素材で加工したキノコが、バクテリアの力を借りて電気を生む「キノコ発電」。そんなユニークな発想がエネルギー問題の解決に新たな視点を与えてくれそうだ。

加工に使用された新素材とは、ハチの巣状の構造を持つ炭素原子のシート状物質グラフェン。その細長い一片であるグラフェンナノリボンでキノコの傘の上に回路をつくり、光合成するバクテリアを利用して発電を行う。

今のところごく微弱な電流が発生するだけだが、いくつかの技術的な課題をクリアできれば、実用化も夢ではない。

スティーブンズ工科大学(ニュージャージー州)の研究チームが実験に使ったのは、近くのスーパーで購入したマッシュルーム。その傘に3Dプリンターでグラフェンナノリボンの電子インクを吹き付け、網の目状のパターンを描いた。次にシアノバクテリア入りのインクをらせん状に吹き付けた。

シアノバクテリアは植物のように光合成をする。そのエネルギーを発電に利用するアイデアは以前からあったが、人工物の上では長く生存できない点がネックになっていた。

学術誌ナノレターズに掲載された論文によると、マッシュルームにのせたシアノバクテリアは長期間生存して活発に光合成を行った。細菌と菌類を組み合わせたハイブリッドシステムで発電が可能なことを実証できたと、論文の執筆者の1人スディープ・ジョシは本誌に語った。

キノコは自然界でも多様な細菌と共生しているので、マッシュルームはシアノバクテリアの快適なすみかになるはずだと、研究チームは考えた。

3Dプリンターで加工したマッシュルームに光を当てると、バクテリアは光合成を始めた。「そのときに発生する電子が一定の電圧を持つグラフェンナノリボンに流れ込み」、電気が生まれるのを確認できたと、ジョシは説明する。

実験で発生したのは65ナノアンペア。ごくごく微弱な電流だが、マッシュルームをいくつもつなげばLED電球を点灯させることも可能になるという。

「実験の目的は、バクテリアのような微生物とナノ素材(グラフェンナノリボン)、それに菌類が相互作用する3次元構造を設計し、精密につくり上げるアプローチを提示することだった」と、ジョシは言う。「今後は相互作用を最適化し、より高い電流を発生させたい」

庭の一隅に並んだキノコで家の消費電力が賄える。そんなメルヘンっぽい未来図も悪くない。

<本誌2018年12月04日号掲載>



※12月4日号(11月27日発売)は「インターネットを超えるブロックチェーン」特集。ビットコインを生んだブロックチェーン技術は、仮想通貨だけにとどまるものではない。大企業や各国政府も採用を始め、データ記録方法の大革命が始まっているが、一体どんな影響を世界にもたらすのか。革新的技術の「これまで」と「これから」に迫った。

ニューズウィーク日本版 岐路に立つアメリカ経済
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年6月3日号(5月27日発売)は「岐路に立つアメリカ経済」特集。関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退

ビジネス

米国株式市場=S&P500ほぼ横ばい、月間では23
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中