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誕生から10年、G20の存在意義はどこにある?

Globalization’s Government Turns 10

2018年12月5日(水)17時20分
アダム・トゥーズ(コロンビア大学歴史学教授)

しかし08年の第1回G20サミットに、世界地図を塗り替える力はなかった。なにしろ初めての顔合わせ、「団結」を誇示するのが精いっぱいだった。いちおう銀行規制などに関する重要な論点では合意に達したが、真にグローバルな会議となったのは、米大統領になったばかりのバラク・オバマが出席した09年4月の第2回サミットだ。

言うまでもないが、G20の政策協調体制の成否は、その場での合意から生まれた政策で判断される。第2回サミットで決めたIMFの出資金増強は成功例で、これは大いに役立った。一方、翌10年のサミットで各国の財政赤字を一律に半減させるという目標を掲げたのは失敗。どう見ても無理な話だった。

金融危機への対応でG20が果たせる役目は減っているが、それでも2国間の首脳会談に便利な機会を提供し続けている。トランプ米政権の「アメリカ第一主義」に対して各国首脳が調整を図る場にもなっている。

世界的にナショナリズムが強まっている今、G20に未来はあるのだろうか。答えは、ほぼ間違いなくイエスだ。国際協力を基盤とする性格上、偏狭な孤立主義の圧力から比較的守られていることも理由の1つだ。確かにG20は排他的な集まりであり、全ての主権国家の平等を重視する国連のモデルからは逸脱しているが、19世紀に後戻りしたわけではない。

メンバー国は増える一方

90年代はまさにグローバル化の進展が世界を変え、国家間の上下関係のバランスが変わり始めた時代だった。G20に参加するための基準は、主権でも政治的傾向でもなく、経済と人口の規模だった。

G20内のパワーバランスも時代と共に変化してきた。財相会議として始まった90年代末の段階では、新興経済圏諸国が世界のGDPに占める割合は25%で、欧米・カナダ・オーストラリア・日本の占める割合は55%だった。今日、前者と後者のシェアはいずれも約4割だが、今後5年間で逆転するとみられる。

政治的分野での地位も変化してきている。欧米先進国はアジアの新興国から、財政規律を守っていないと批判されている。一方で、G20におけるブラジルやインドネシアの発言力が強まった結果、IMFもグローバルな資金の流れの管理には新興国市場も加わる必要があると認識するようになった。

今後の問題は、パキスタンやナイジェリア、バングラデシュのような人口大国をいつまで排除していられるかだ。欧州諸国がEUに一本化される可能性を別にして、その他の国がG20を抜ける可能性は低い。だからメンバー国は今後、もっと増えるだろう。そしてG20がG25やG30に増えれば、それだけグローバルな組織としての正統性は(国連創設当時のような「世界国家」の理想に近づくことはないとしても)高まる。

だが21世紀の現実を見れば、国連のような国際機関は旧体制の遺物ともいえる。14億もの人口を擁し、急速な経済成長を続けるインドや中国を、アイルランドやウズベキスタンなどの小国と対等に扱う仕組みはあまりに現実離れしている。

対してG20は、参加資格に一定の線引きをする一方、多極化する世界における力関係の変化にも対応できる。今は国のサイズがものをいう。だからこそ人口と経済力を基準とするG20の枠組みは今後も有効なのだ。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2018年12月04日号掲載>



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