最新記事

ウイグル

ウイグル絶望収容所で「死刑宣告」された兄を想う

2018年11月8日(木)12時20分
長岡義博(本誌編集長)

uighur181108-2.jpg

タシポラット氏の拘束を伝えるRFAの英文記事

グルジャ市(伊寧市)で郵便局を勤めた父の下、5人きょうだいの一番下の弟に生まれたヌーリ氏にとって、タシポラット氏は背が高く、バレーボールが得意で学業も優秀な自慢の兄だった。タシポラット氏は体育専門学校に進まないかと誘われるほどバレーボールが優秀だったが、学問の道を選び新疆大学に進学。卒業後、新疆大学で教授を勤めた後、吉林省長春市の日本語学習機関で日本語を学び、東京理科大学大学院(修士・博士課程)へ留学した。

同じく新疆大学文学部を卒業したヌーリ氏は90年に兄の後を追って日本へ。当時、日本に暮らすウイグル人は数えるほどしかおらず、2人は助け合いながら異国の地で学生生活を送った。理系の兄は国費留学だったが、文学専攻の弟は私費留学だった。居酒屋でアルバイトをするつましい生活の中、兄とカラオケを歌いに行き、日本の歌で日本語を練習したのがヌーリ氏の東京の思い出だ。

「もう連絡はしない」

兄のタシポラット氏は93年に先に帰国し、ヌーリ氏は99年まで東京外国語大学や埼玉大学で学生生活を送った。しかし、97年に自治区グルジャ市で反政府デモと弾圧事件が発生。ヌーリ氏は中国に帰ることを諦め、日本で政治亡命を認められる見込みもないためアメリカに出国し、以後20年以上アメリカで生きてきた。現在はバージニア州に暮らし、建設業などで生計を立てながら、東トルキスタンの独立運動に関わっている。アメリカでは日本料理屋も経営し、知人たちは彼のことを「ヌーリ・寿司」と呼んでいる。

ウイグル人とはいえ、新疆大学の学長を務める兄は国外で独立運動に関わってきたヌーリ氏にとって「体制側」の人間だ。兄とあえて距離を置き、長年連絡も取らなかった。直接言葉を交わしたのは、01年にアメリカにやって来た時に少しだけ会ったのが最後だ。「兄の目で見たら私は分裂主義者だ」と、ヌーリ氏は言う。「我々は話し合った。私は帰らない。兄さんはウルムチで頑張って欲しい。もう連絡はしない、と」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、ベネズエラ石油「封鎖」に当面注力 地上攻撃の可

ワールド

英仏日など、イスラエル非難の共同声明 新規入植地計

ビジネス

ロ、エクソンの「サハリン1」権益売却期限を1年延長

ビジネス

NY外為市場=円が小幅上昇、介入に警戒感
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中