最新記事

東南アジア

シンガポール、次期首相最有力候補にヘン財務相 「リー王朝」批判避ける狙いも

2018年11月26日(月)17時30分
大塚智彦(PanAsiaNews)

与党支持者たちとの撮影に応じ、親しみやすさを印象づけるリー・シェンロン首相だが…… Edgar Su/REUTERS

<外国為替取引額で日本を上回り、世界の金融センターとして活況を呈するシンガポール。だが政治に関しては「明るい北朝鮮」と言われる独裁が続いている>

シンガポールの与党「人民行動党(PAP)」はこのほど開催した中央執行委員会で同党書記長でもあるリー・シェンロン首相を支える重要ポスト「書記長第1補佐」にヘン・スイキャット財務相を抜擢する人事を発表した。党ナンバー2の同ポストはリー首相の後継首相の最有力候補者が就任する地位とされ、2021年までに実施が予定される次期総選挙前後にリー首相は退任する見通しで、このままいけばヘン氏が同国第4代首相に就任することが確実視されている。

シンガポールは1965年の独立以来これまで3人の首相が誕生している。初代が建国の父と言われるリー・クアンユー首相、2代目がゴー・チョクトン首相、そして3代目の現職がリー・シェンロン首相だ。現在のリー・シェンロン首相は初代リー・クアンユー首相の長男であることから、シンガポールはリー一族による「王朝支配」との批判もある。親子による世襲的政権運営や報道・集会・表現の自由などを厳しく制限する社会規制、さらに国会議席89議席のうち与党PAPが実に83議席を占めるという事実上の1党独裁政権であることなどから東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国などからは「明るい北朝鮮」と揶揄されることも多い。もっともこうした呼び方には、経済的に発展した優等生シンガポールに対する他のASEAN諸国からの妬みや恨みも込められているという。

次期首相候補にリー一族以外の政治家であるヘン氏が抜擢されたことは、こうした世襲的な政権運営への批判を避けることも狙いとみられている。

若返りと同時に政策の継続性優先

11月23日に開催されたPAPの最高意思決定機関である中央執行委では、世代交代を図るためにメンバーの刷新を断行。首相を補佐してきた書記長第1補佐のテオ・チーヒエン、同第2補佐のターマン・シャンムガラトナムの両副首相が退任、後任の第1補佐にヘン財務相、第2補佐にチャン・チュンシン貿易産業相が就任した。2人とも次世代のシンガポール政治家、そして次期首相候補として以前から名前が取りざたされていた人物である。

リー・シェンロン首相はヘン財務相が最側近として自らを支える第1補佐に選出されたことを受けて「若手が数カ月かけて議論した結果、次の指導者に相応しいとヘン氏を選んだ。この若い世代の決定を支持したい」とのコメントを発表。

同時に近く内閣改造に踏み切る意向も示しており、新内閣でヘン財務省を内閣のナンバー2である副首相に就任させる可能性が高く、ヘン財務省は党内ナンバー2に次いで閣内でも序列第2位となり、次期首相としての地位は万全となる、とみられている。

ヘン財務相はシンガポール金融通貨庁(MAS)の長官から2011年に選挙で当選、政界入りした。教育相を経て財務相として国家予算編成の重責を担い、リー・シェンロン政権を支えてきた。

ヘン財務相はリー・クアンユー元首相の首席秘書官を務めていたこともあり、いわばリー首相親子の側近であり、次期首相としてリー政治を継承することは間違いないとされる。そうした経歴と「リー一族への忠誠心、貢献度」が評価された抜擢とみられている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:ネタニヤフ氏を合意に引き込んだトランプ氏、和

ビジネス

アングル:高値警戒くすぶるAI株、ディフェンシブグ

ビジネス

中国のスマホ出荷、アップルは0.6%増 第3四半期

ワールド

訂正立維国の3党首、野党候補一本化で結論持ち越し 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中