最新記事

中国経済

世界最大の自動車市場の中国で「商用EV革命」 メーカー各社が熱視線

2018年11月25日(日)18時04分

11月16日、世界最大の自動車市場である中国で増える一方の自動車メーカーにとって、今こそEVトラックやバンに投資する好機が到来している。写真は、北汽福田汽車の自動運転トラック。北京で10月撮影(2018年 ロイター/Thomas Peter)

中国の電気自動車(EV)スタートアップ企業「奇点汽車」には、壮大な計画がある。年間最大5万台のEVバンを生産し、中国で起きている「eトラック」需要の波に乗るというものだ。

世界最大の自動車市場である中国で増える一方の自動車メーカーにとって、今こそEVトラックやバンに投資する好機が到来している。汚染規制の強化や手厚い補助金に加え、活況な消費者向け電子商取引(eコマース)が後押しする軽量トラック需要が牽引している。

「中国で商用EV革命が起きようとしている、と考えている」。奇点汽車の共同創業者、沈海寅氏はロイターとのインタビューでそう語った。「EVの未来は、多くの点において、自家用車よりも商用車の方が、早く訪れるかもしれない」

南部湖南省で新工場を起工したばかりの奇点汽車は、来年半ばまでに、同社初のEVを発表する計画だ。2020年にはEVトラック生産工場を稼動し、早期に年5万台の生産を目指す。沈氏は、eコマースや物流企業の興味を引くであろう2つの主要モデルを思い描いている。1つは、フォードの「トランジット」やトヨタの「ハイエース」程度の大きさで、市内配送用の小型バン。そしてもう1つは、2トン未満の配送トラックだ。

eトラックの成長機運は、最初は中国そして世界へと広がっていくEV市場の転換点となる可能性がある。そうなれば、米テスラなどのEVメーカーが自家用車で実現しようとしている大量普及の後押しになるかもしれない。

「これは新たなゲームだ」。元クライスラー幹部で上海のコンサルティング会社オートモビリティのトップ、ビル・ルッソ氏はこう語る。「輸送・物流サービス向け車両として配備されてこそ、EVの強みが発揮できる」

高価格のバッテリーや面倒な充電ニーズといったEVにつきものの障害は、トラックの場合、全体の運営コストがガソリン車やディーゼル車よりも安くなるため、解消される可能性がある。

配送ルートが予測可能で、充電ステーションの配置や配送日の予定も戦略的に立てられるため、バッテリーの小型化が実現できる。また、トラックは24時間体制で稼動することが多いので、スケールメリットも達成しやすいとルッソ氏は指摘する。

北京汽車集団(BAIC)<1958.HK>の子会社であり、6トン未満の軽トラック製造で中国最大手の北汽福田汽車<600166.SS>も、配送用EVバンへの参入を目指している、と事情に詳しい複数の人物が明らかにした。

北汽福田汽車の一行は8月、東京銀座に近い低層ビルにある簡素なオフィスを訪れた。魅力的な配送用EVミニバンを開発すべく、日本の自動車メーカーを退職した高名なエンジニアのアドバイスを求めてやって来たのだ。

この場に居合わせた人物2人によると、北汽福田汽車の一行は、低コストのバン製造にとって、日本の小型車技術がよい土台になると考え、5万元(約82万円)という低価格販売を想定した設計について、アドバイスを求めていたという。

「昨年後半から、これで2度目の訪問だ」と1人の人物は匿名で語った。「彼らは真剣だった」

北汽福田汽車はコメントしなかった。同社は商用EVをすでに販売しているが、その規模は小さく、昨年の販売台数は約800台だった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

台湾総統、強権的な指導者崇拝を批判 中国軍事パレー

ワールド

セルビアはロシアとの協力関係の改善望む=ブチッチ大

ワールド

EU気候変動目標の交渉、フランスが首脳レベルへの引

ワールド

米高裁も不法移民送還に違法判断、政権の「敵性外国人
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 5
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
  • 6
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 9
    トレーニング継続率は7倍に...運動を「サボりたい」…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ女性が目にした光景が「酷すぎる」とSNS震撼、大論争に
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 6
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中