最新記事

記者殺害事件 サウジ、血の代償

カショギ惨殺事件がワシントンの話題を独占する4つの理由

THE SAUDIS ARE KILLING AMERICA’S MIDDLE EAST POLICY

2018年10月30日(火)16時00分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)

トランプ米大統領は記者殺害を命じたと疑われるサウジのムハンマド皇太子(左)と親密な関係を築いてきた Jonathan Ernst -REUTERS

<サウジアラビアと親密なトランプ政権にとって、事件の影響はあまりに大きい。ただ、今日までのサウジは悩みの種以外の何物でもなかった>

※この記事は本誌11/6号(10/30発売)「記者殺害事件 サウジ、血の代償」特集より。世界を震撼させたジャーナリスト惨殺事件――。「改革」の仮面に隠されたムハンマド皇太子の冷酷すぎる素顔とは? 本誌独占ジャマル・カショギ殺害直前インタビューも掲載。

仮にドナルド・トランプ米大統領がホワイトハウスの庭で誰かを殺したとしても、首都ワシントンではジャマル・カショギ殺害事件ほどの話題にはなるまい(大統領執務室での不倫疑惑でも浮上すれば話は別だが)。

トルコで起きた謎の殺人事件が、ほぼ1カ月もワシントンの話題を独占しているのはなぜか。理由は4つある。

まず、カショギは地元紙ワシントン・ポストのコラムニストだった。遠い異国の事件とはいえ、犠牲者は地元の言論界の仲間だ。

次にトランプ政権はサウジアラビア、とりわけカショギ殺害を命じた疑いのあるムハンマド・ビン・サルマン皇太子と深い関係にある。

さらに、サウジアラビアがアメリカの政界に対して持つ影響力について、不愉快な疑問が浮上している。

そして最後に、傲慢なムハンマドとトランプ政権の親密さに対する批判の高まりがある。この皇太子はカショギだけでなく、アメリカの中東政策をも殺しかねない。

トランプ政権が中東政策においてサウジアラビアを、そして実力者のムハンマドを重視すると決めたことには一定の合理性がある。トランプがホワイトハウスの主となった昨年1月、過去の中東政策を早速洗い直した外交スタッフは、サウジ以外の選択肢がないことにすぐ気付いたはずだ。他のアラブ諸国は頼りにならず不安定、そして国の規模が小さ過ぎる。

だからトランプはサウジを選んだ。そしてトランプが「イランとの核合意破棄」という選挙公約を履行する意思を表明すると、サウジは喜んでトランプを支持した。

トランプがテロ組織ISIS(自称イスラム国)を「完全に破壊」すると豪語してイスラム過激派に戦いを挑んだときも、サウジ政府は支援を表明した。パレスチナ問題でも、イスラエルべったりのトランプ政権に「協力」を約束した。アメリカの軍需産業を助けたいトランプの意向に応え、サウジは気前よく巨額なアメリカ製武器を買った。石油と並んで、武器・兵器は両国間の貿易で大きな比重を占めている。

威勢はいいが、実績はなし

ムハンマドとトランプ政権の深い仲は周知の事実だ。サウジアラビアのサルマン国王はタフガイで鳴らす息子がお気に入りで、後継者に決めていた。トランプもタフガイは大好きだ。

そして米政権内の誰かが、トランプの義理の息子ジャレッド・クシュナー上級顧問(37歳だ)をムハンマド(こちらは33歳)に引き合わせるという妙案を思い付いたのだろう。もちろん前者に外交経験がなく、後者が世間知らずであることなど度外視だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米財務長官、トランプ関税を懸念 「インフレ抑制阻害

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米CPI控え 豪ドルは利下

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ154ドル安 インフレ指標

ワールド

バイデン氏、日鉄のUSスチール買収を阻止へ 国家安
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:韓国 戒厳令の夜
特集:韓国 戒厳令の夜
2024年12月17日号(12/10発売)

世界を驚かせた「暮令朝改」クーデター。尹錫悦大統領は何を間違えたのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達した江戸の吉原・京の島原と並ぶ歓楽街はどこにあった?
  • 2
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 3
    「男性ホルモンが高いと性欲が強い」説は誤り? 最新研究が示す新事実
  • 4
    無抵抗なウクライナ市民を「攻撃の練習台」にする「…
  • 5
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    韓国大統領の暴走を止めたのは、「エリート」たちの…
  • 8
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 9
    ジンベエザメを仕留めるシャチの「高度で知的」な戦…
  • 10
    ティラノサウルス科の初記録も!獣脚類の歯が明かす…
  • 1
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 2
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、妻の「思いがけない反応」...一体何があったのか
  • 3
    国防に尽くした先に...「54歳で定年、退職後も正規社員にはなりにくい」中年自衛官に待ち受ける厳しい現実
  • 4
    朝晩にロシア国歌を斉唱、残りの時間は「拷問」だっ…
  • 5
    人が滞在するのは3時間が限界...危険すぎる「放射能…
  • 6
    「糖尿病の人はアルツハイマー病になりやすい」は嘘…
  • 7
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 8
    肌を若く保つコツはありますか?...和田秀樹医師に聞…
  • 9
    ついに刑事告発された、斎藤知事のPR会社は「クロ」…
  • 10
    キャサリン妃が率いた「家族のオーラ」が話題に...主…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 9
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中