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THE SAUDIS ARE KILLING AMERICA’S MIDDLE EAST POLICY

2018年10月30日(火)16時00分
スティーブン・クック(米外交問題評議会上級研究員)

いくら世間知らずでも、ムハンマドは自分の国が変化を必要としていることを理解していた。そして彼の掲げる経済と社会の改革は、アメリカにも好ましいものに見えた。

もちろん、サウジアラビアがアメリカにとって有益な存在だと考えるのは希望的観測の域を出ない。実際、今日までのサウジアラビアは悩みの種以外の何物でもなかった。

確かに皇太子は宗教警察の権限を縮小し、映画館の営業を認め、コンサートの開催を許し、女性による自動車の運転も解禁した。これらはどれも建設的な改革だった。

しかし一方で、サウジ社会における人権侵害や言論弾圧はひどくなっていた。政治力を蓄えたムハンマドは、どれほど遠く離れていようと、どれほど穏健であろうと、自分に反対する者は全て黙らせるつもりでいる。外国からの批判に対する彼の反論を要約すれば、「私はサウジ皇太子だ、邪魔をするな」とでもなるだろう。

それはアメリカに直接影響を及ぼすわけではないが、権力を追い求めるムハンマドの貪欲さが、微妙なバランスの上に成り立ってきたサウド王家を不安定化させているのではないか、というもっともな疑問も浮上している。

外交に関していえば、サウジアラビアのやってきたことは威勢がいいだけで、何も達成できていない。人権問題で優等生のカナダ政府がサウジ人権活動家の拘束を非難するツイートをしたときは、何とかカナダを悪者に見せようとやり返したが、かえって墓穴を掘った。

昨年6月にはエジプトや隣国のアラブ首長国連邦、バーレーンを味方に引き込み、イランに接近しているとの口実でカタールとの国交を断ち、経済封鎖に乗り出した。結果、一時的にはカタール経済も揺らいだが、すぐに立ち直り、今はサウジ同盟国との国交がなくともうまくやっている。

この騒動で得られた成果があるとすれば、何としてもイランを封じ込めたいトランプ政権の国防担当者の頭痛のタネを増やしたことくらいだ。

裏目に出たサウジとの絆

パレスチナ和平に関しても、サウジアラビアが活躍できる見込みはない。トランプ政権がパレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長にイスラエルへの降伏を説くような状況で、パレスチナ側が親米派のサウジ政府に公平な仲介役を期待するわけがない。

最悪なのはシーア派武装勢力の増長を食い止め、アラビア半島の不安定化を防ぐためと称して始めたイエメン内戦への軍事介入が、全く正反対の事態を招いている事実だ。

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