最新記事

沖縄

本土に伝わらない沖縄の本音と分断

The True Face of Okinawa

2018年9月28日(金)19時00分
與那覇里子(沖縄タイムス記者)

地元の友達と飲みに行っても基地問題に触れることはない。語れば「面倒な」人になる。語りたければ、普段のおしゃべりの中から何年も何年もかけて、この人なら語っても大丈夫だと自分なりに確信を持ってからでないとできない。

「地元」コミュニティーの強さが、逆に語りにくくし、本音を見えにくくしてしまっている。そもそも沖縄県民がなぜ基地問題に、こんなにも敏感にならないといけないのか。

「差し出した基地はない」

米軍は、45年の第二次大戦中から沖縄の土地を「強制的」に奪い、基地を建設してきた。52年にはサンフランシスコ講和条約が発効し、日本は独立したが、それと引き換えに沖縄はアメリカの統治下になった。日本国憲法は適用されず、自己決定権もないことで、米軍基地が本土から沖縄に集中した。

57年、群馬県の演習場内で薬莢を拾っていた女性を米兵が射殺する「ジラード事件」が発生した。本土では、米軍駐留への批判が相次ぎ、当時の岸信介政権が米軍の撤退を要求。ドワイド・アイゼンハワー大統領は沖縄への基地移転を急いだ。沖縄でも、基地の拡張や奪われた土地代の一括払いに反対する「島ぐるみ闘争」が繰り広げられ、世論も高まったが、「無視」された。

普天間飛行場も米軍が飛行場に適していた宜野湾の土地を奪って建設したものだ。関東地方の米軍基地を大幅に縮小する「関東計画」の影響もあって、79年に本土からヘリが移転し、「世界一危険な米軍施設」(03年、ドナルド・ラムズフェルド国防長官)になっていった。

沖縄県民が何かしたのだろうか。翁長前知事は国連で「沖縄県民が『どうぞ』と差し出した基地はない」と述べた。そう、ないのだ。

県外への移設を求めても、本土に引き取り手は見つからない。国は沖縄に基地を置く理由に「地理的優位性」などを挙げていたが、18年9月、石破茂元防衛相が沖縄への米軍基地集中は、政治的なものだと認めた。

これは一体、沖縄の問題なのだろうか。沖縄を引き裂こうとしている正体は、沖縄にあるのだろうか。

沖縄をめぐるヘイトやフェイクニュースがネットではびこるなか、沖縄の問題を全国により届ける方法を研究したくて、17年に私は会社を休職し東京の大学院でデジタルジャーナリズムを学び始めた。毎日沖縄への罵詈雑言をチェックしていた時は、私も本土の人たちは沖縄のことが嫌いなのだと思っていた。

でも東京では、沖縄出身だと言うと羨ましがられた。聞かれるのは、観光スポットやホテルの情報、沖縄出身の芸能人のこと。「基地のことはいいの?」と聞くと、「あんまり分からない」「難しいんで」。彼らは基地問題にはあまり関心がなく、ネットの発言が荒れているのは、一部の人たちによるものなのだと分かった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

東京ガス、25年3月期は減益予想 純利益は半減に 

ワールド

「全インドネシア人のため闘う」、プラボウォ次期大統

ビジネス

中国市場、顧客需要などに対応できなければ地位維持は

ビジネス

IMF借款、上乗せ金利が中低所得国に重圧 債務危機
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗衣氏への名誉棄損に対する賠償命令

  • 4

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 5

    マイナス金利の解除でも、円安が止まらない「当然」…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    ワニが16歳少年を襲い殺害...遺体発見の「おぞましい…

  • 9

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 10

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中