最新記事

中国

モーリー・ロバートソン解説:「中華帝国」復興の設計図

BUILDING “APARTHEID EMPIRE”

2018年8月17日(金)18時00分
モーリー・ロバートソン

magSR180817-2.jpg

一帯一路の「通過国」スリランカで進む中国資本による港湾事業 ATUL LOKE-BLOOMBERG/GETTY IMAGES

問題は、こうした中国の作戦にトランプ政権が「役立って」しまっていること。ドナルド・トランプ米大統領の言動や振る舞いが世界に対して「アメリカは自国優先で、大国の威厳がもはやない。没落している」との印象を与えると、小さな国はリスクヘッジとして中国と仲良くしておくかという考えになってしまう。アメリカがクラッシュしたときに道連れにならないように、というふうに。

――世界に中国思想が流れている。

全世界にいる華僑って全部合わせると数千万人くらいいるのでしょうかね。彼らへの知的な戦略で、どんどん中国政府寄りの考え、あるいは民族ナショナリズムを広めようとしていますね。世界中で成功した華僑の大半が、中国共産党が提供する「中華帝国の復興」という物語に乗ってしまえば、中国政府のソフトパワーも加速できます。

アメリカの将来については「ポスト人種・民族の時代」になるという話をしましたが、中国は全く逆の民族主義でアンチ多様性。多民族が何千年もの間まざり続けてきたなかで今は漢族だけが力を持っている。ウイグルやチベットなどの少数民族は経済的にも民族的にも言語でも弾圧されており事実上の「アパルトヘイト体制」にある。

中国政府は国民を監視し、民主主義や人権を抑圧して支配を一律にするためにAI(人工知能)やロボット技術開発を進めている。中国全土には2億台近い監視カメラが配置されているのですが、特にウイグル人に対する監視手法はひどくて公衆衛生プログラムの名の下に中国政府からDNAを採取されているんですね。いわば人体実験によって生物情報データベースが作られているわけで、映画『ブレードランナー』みたいな世界ですよ。

――なぜ「中国的アパルトヘイト」が生まれてしまった?

これは、歴代の欧米諸国、特にアメリカが中国と結託してソ連と対決することを選ぶという、「悪魔の握手」をしてしまったからです。中国は対ソで協力する代わりに、アメリカは中国の内政に介入しないということですね。あれ以来、ずっと同じ状況が続いています。ウイグルとチベットの問題は面倒くさいので、どの国も手を出せなくなっている。絶対に中国政府に勝てませんからね。

だから、誰からも救われず世界から放置されたウイグル人の若者世代が、ほんの一部ですがイスラム原理主義に傾倒しているんです。欧米諸国が掲げる人権主義とか国連の人権宣言って、ウイグル人にしてみれば「ただしウイグル人は除く」と言われているようなもの。そうなると彼らは、「(欧米に反旗を翻す)アルカイダとかISISってガッツがあるな」と思ってしまう。欧米にとっては困った流れではありますが、ウイグル人に背を向けながら国際社会で「人道」をうたい続けた欧米にそのツケが回ってきている形です。パキスタンの情報機関がタリバンを育てたルートとは違って、ウイグル人社会に原理主義が根付いていくのは中国政府に物申せなかった欧米の汚点と言えます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、NATO首脳会議出席 国防費GDP5%

ワールド

米の不当な攻撃、「世界を危険にさらす」とプーチン氏

ワールド

米国のイラン攻撃、国際法でどのような評価あり得るか

ワールド

ウクライナ首都と周辺に夜間攻撃、8人死亡・多数負傷
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本のCEO
特集:世界が尊敬する日本のCEO
2025年7月 1日号(6/24発売)

不屈のIT投資家、観光ニッポンの牽引役、アパレルの覇者......その哲学と発想と行動力で輝く日本の経営者たち

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々と撤退へ
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり得ない!」と投稿された写真にSNSで怒り爆発
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 6
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 7
    EU、医療機器入札から中国企業を排除へ...「国際調達…
  • 8
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    【クイズ】次のうち、中国の資金援助を受けていない…
  • 1
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 2
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の「緊迫映像」
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    イタリアにある欧州最大の活火山が10年ぶりの大噴火.…
  • 8
    ホルムズ海峡の封鎖は「自殺行為」?...イラン・イス…
  • 9
    イランとイスラエルの戦争、米国より中国の「ダメー…
  • 10
    飛行機内で「最悪の行為」をしている女性客...「あり…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中