最新記事

中国

モーリー・ロバートソン解説:「中華帝国」復興の設計図

BUILDING “APARTHEID EMPIRE”

2018年8月17日(金)18時00分
モーリー・ロバートソン

Photograph by Makoto Ishida for Newsweek Japan

<「終身国家主席」習近平が推し進める壮大な民族主義国家の青写真とは? 「東京大学×ハーバード大学」の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、日本メディアが伝えない世界情勢の読み解き方を「講義」する本誌8/14・21号「奇才モーリー・ロバートソンの国際情勢入門」特集より>

洋の東西でさまざまに語られる「中国脅威論」だが、恐れるべき中国の怖さの本質とはどのようなものなのだろうか。「モーリー的視点」で探ってみると......。

◇ ◇ ◇

――編集部:南シナ海など中国の拡張政策に国際社会の懸念が高まっている。

中国の拡張政策は、軍事面だけを見ていると分かりません。確かに南シナ海に人工島を建設して滑走路を造って、シーレーンを危うくしているという軍事的脅威に関する話がたくさんあるわけですけれど、彼らが進める拡張政策はもっと包括的ですね。つまり、ビジネスから教育から政治まで非軍事的な分野にも、全方位的に影響圏を広げようとしているわけです。

Active Measuresというスパイ用語があります。情報収集のためにターゲットを動揺させたり、相手にお金やセックスのインセンティブを示すことで自分に有利な方向へ動かす諜報作戦のことです。最近明るみになったのが、中国共産党によるニュージーランドへのアクティブ・メジャーズです。

これはカナダの諜報機関が5月に発表した報告書で警告しているのですが、中国資本がニュージーランドのビジネスから大学の教育プログラムから研究施設にまで入り込んでいる。つまり知的エリート層の多くが中国共産党のターゲットになっているらしいんです。中国は出資や資金協力を通じて直接・間接的に、ニュージーランドの経済界に浸透している。直近では国産蜂蜜「マヌカハニー」の有名ブランドの買収に動いているとも報じられています。スケールの小さなニュージーランドの経済が中国への依存を深めると、やがて政治的な決定も中国政府に配慮するようになるでしょう。実際に政治家への献金も活発化しています。

また、研究機関のステークホルダーになっておけば、中長期的に軍事技術に触れる機会も増えていくことが予想されます。ちなみにアメリカのトランプ政権は中国企業による米ハイテク技術獲得を制限するため、対米外国投資委員会(CFIUS)の審査を強化する方針を表明しています。また、アメリカから中国へのハイテク技術の輸出も強く制限しようと動いています。

さらに中国は、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの中華系メディアに入り込むために「並々ならぬ努力」(報告書)をしている。以前はこうした中華系メディアには台湾資本が広告を掲載していたこともあって民主的な内容だったんですけど、全部淘汰されて中国政府寄りの内容になっている。

また、オーストラリアでは地元に暮らす中国人や台湾人の言動をも監視し、現地の華僑も中国共産党への反対意見を口にできない環境を整えようとしています。まさにアクティブ・メジャーズですよ。ニュージーランドは小さな国であり、中華コミュニティーもアメリカやオーストラリアと比べて小さいので中国は実験的にやっているのでしょう。むき出しの覇権主義......。「終身国家主席」習近平(シー・チンピン)による「国境なき言論統制」に屈服してはいけない!

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECBの金融政策修正に慎重姿勢、スロバキア中銀総裁

ビジネス

キンバリークラーク、「タイレノール」メーカーを40

ビジネス

米テスラの欧州販売台数、10月に急減 北欧・スペイ

ビジネス

米国のインフレ高止まり、追加利下げ急がず=シカゴ連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつかない現象を軍も警戒
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 9
    「白人に見えない」と言われ続けた白人女性...外見と…
  • 10
    【HTV-X】7つのキーワードで知る、日本製新型宇宙ス…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 10
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中