最新記事

韓国

済州島に逃れてきた一握りのイエメン難民にヒステリーを起こす韓国人

South Korea Is Going Crazy Over a Handful of Refugees

2018年8月7日(火)16時30分
ネーサン・パク(ジョージタウン大学非常勤教授)

権威主義的な朴槿恵前大統領に対する国民の反発が生んだリベラルな文在寅政権の対応が案外保守的なものだったことには、落胆もあるだろう。だが文政権が少なくとも部分的にでも反難民感情に迎合した理由は、各種世論調査を見れば明らかだ。この問題が文政権の支持基盤である若い有権者や女性、中流階級に影響を及ぼしているからだ。

市場調査会社ハンコック・リサーチの最近の調査では、回答者の56%がイエメン難民の受け入れに反対を表明。受け入れを支持すると回答した者はわずか24%だった。

受け入れに特に強く反対したのは女性(男性51%に対し女性61%)で、年齢層別では20代(70%)と30代(66%)、さらに中間所得層(62%)の間に、難民受け入れに対する反対意見が最も多く見られた。

女性と若者と富裕層というのは一般に、移民や難民に対してより寛大な層であることを考えると、驚きの結果だ。だが韓国の社会には、進歩主義的な原理原則とイスラモフォビア(イスラム恐怖症)の醜悪な融合がはびこっている。たとえば、世界的な「#MeToo」運動に刺激を受けて活動を活発化させている韓国のフェミニストたちなら、同じ弱者である難民たちに手を差し伸べてもよさそうなものだ。だが現実には、真偽の入り混じったヨーロッパの報道を真に受けて、イスラム教徒の難民はレイプ魔だと吹聴して誤ったイメージを助長しているのだ。

反難民を掲げるハッシュタグがトレンド入り

7月後半から8月初旬にかけて、韓国語のツイッターでは「#済州島で行方不明になった女性たち」というハッシュタグがトレンドに入った。過去2カ月で6人の女性が済州島で遺体で発見された事件について、難民の仕業だとするものだ。

5000回以上リツイートされたある投稿には、次のように書かれている。「済州島の住民として、私は心配している。学校の隣にある図書館に、彼ら(難民たち)が女性を殺すというメモがあった。私の周りには難民と中国人ばかり。わずか2カ月で6人の女性が遺体で発見されている」

政治的指向で分類すれば、各種世論調査で難民受け入れに反対する割合が最も少なかったのは、進歩主義を自認する者たち(49%)だった(これに対して中道派は60%、保守派は61%)。だが北朝鮮との和平を追求しつつ、国内で多岐にわたる経済政策を施行するための幅広い支持を必要としている文政権にとって、自らの支持基盤を失うことは避けたい。

韓国社会に人種差別や外国人嫌いの風潮があることは明らかだ。だがそれだけでは、イエメン難民に最も激しく反発しているのが同国の最も見聞の広い、最も教養ある層であるという事実に説明がつかないのもまた事実だ。

(翻訳:森美歩)

From Foreign Policy Magazine

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日中双方と協力可能、バランス取る必要=米国務長官

ビジネス

マスク氏のテスラ巨額報酬復活、デラウェア州最高裁が

ワールド

米、シリアでIS拠点に大規模空爆 米兵士殺害に報復

ワールド

エプスタイン文書公開、クリントン元大統領の写真など
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 5
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 6
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 7
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 8
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 9
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 10
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中