最新記事

韓国

「エホバの証人」投獄は違憲と韓国憲法裁判所 良心的兵役拒否は基本的人権の一つ

2018年7月3日(火)15時30分
クリスティナ・マザ

信者は世界中に(写真は2013年、行事のためメキシコシティーのサッカー場に集まったメキシコの信者たち) Edgard Garrido-REUTERS

<韓国憲法裁判所が兵役法の一部を違憲と判断。宗教的な信念や良心を理由に兵役を拒否することは「基本的人権」であると容認>

複数の人権団体が韓国政府に対して、良心を理由に兵役を拒否する者の投獄をやめるよう呼びかけている。この「良心的兵役拒否者」には宗教団体「エホバの証人」の信者が多くおり、彼らは長年にわたって刑務所での服役を強いられてきた。

こうしたなか韓国の憲法裁判所は6月28日、良心的兵役拒否者を処罰することを定めた兵役法の条項を「違憲」とする判断を下した。人権活動家たちはこの判断が、エホバの証人をはじめ兵役を拒否する者たちのための、兵役に代わる服務制度の創設に向けた第一歩になり得るとしている。

エホバの証人によれば1953年に朝鮮戦争の戦闘が止んだ後、同宗教団体の信者1万9300人以上が懲役刑に処され、服役期間は述べ3万6700年を超えている。

「過去65年にわたって、若い信者たちは勇敢にも、良心に基づく抵抗を貫いてきた。憲法裁判所が今回、良心を理由に戦争に行くことを拒絶することも基本的人権だと認めたことを、とても嬉しく思っている」と、エホバの証人の国際広報担当者デービッド・セモニアンはニューヨークの世界本部で本誌に語った。

人権団体「さらに踏み込んだ措置を」

エホバの証人は、戦闘行為に直接携わる必要がないものも含め、あらゆる形態の兵役を拒んでいる。同団体の代表らによれば、韓国では2018年だけでも2014人程もの若者が投獄されている。

憲法裁判所の判断を受け、韓国政府は2019年末までに、良心的兵役拒否者のために代替制度を導入しなければならない。各種人権団体は韓国政府に対して、兵役拒否を理由に処罰された者たちの犯罪記録を抹消するようにとの呼びかけも行っている。

「韓国政府は同裁判所の判断を聞き入れて適切な代替服務制度を導入し、将来の若者たちが良心的兵役拒否を理由に処罰されることがないようにしなければならない」と、アムネスティ・インターナショナルの東アジア事務所調査員、庄司洋加は言う。

「良心に基づいて兵役を拒否したことを理由に、今も200人以上の若い男性が投獄されており、さらに数千人に犯罪歴が残っている。憲法裁判所が、良心的兵役拒否者の投獄が後に彼らに及ぼす影響について言及しなかったことはきわめて遺憾だ」と庄司は続けた。「兵役の良心的拒否は犯罪ではない。韓国政府は、全ての良心的兵役拒否者の犯罪記録を抹消するべきだ」

韓国では南北間の緊張に鑑み、18歳から35歳の男性は最低2年間の兵役を義務づけられている。ここ数カ月、南北間には「雪解け」がもたらされているものの、朝鮮戦争は正式には終結しておらず、両国はいまだに戦争状態にある。

(翻訳:森美歩)

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国とサウジが外相会談、地域・国際問題で連携強化

ビジネス

グーグルがパプアに海底ケーブル敷設へ、豪が資金 中

ワールド

トルコ、利下げ後もディスインフレ継続へ=中銀総裁

ビジネス

印インディゴ、顧客に5500万ドル強補償 大規模欠
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 5
    極限の筋力をつくる2つの技術とは?...真の力は「前…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    大成功の東京デフリンピックが、日本人をこう変えた
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中