最新記事

英語学習

「会話を重視」しすぎた英語教育の末路 今こそ「読み・書き」を再発見せよ!

2018年6月27日(水)17時00分
木原 竜平(ラボ教育センター 教育事業局長)※東洋経済オンラインより転載

さらに、英語を身に付けるには英語の文法を学ぶことは避けられません。過去30年間ないがしろにされてきた「読み・書き・文法」を学ぶことはとても重要なのです。もちろん、どう学ぶかといった方法は検討する必要がありますが、文法を知らずに外国語を話せるようにはなりません。

会話の授業ではよく、"How are you?" "I'm fine. Thank you, and you?"などといったお決まりのフレーズを使って練習をします。しかし、実世界ではここから会話が進み、その会話を続けるには、文法を知る必要があるのです。

Nice to meet youが「ナス3つ〜」に

たとえば、"I had a fever last night. Do you know a good doctor?"(昨夜熱が出たんだけど、誰かいいお医者さんを知っている?)と友人に聞かれた場合、お決まりのフレーズだけで返答することはできないでしょう。「どれくらい熱があったの? ボクが幼いときから通っているいい医者が、君の家の近くにあるよ。連絡してからいくといいよ」などと伝えるには、文法を身に付けることが不可欠なのです。

移行期間として始まっている小学校の英語科でも、耳から聞いた英語を話したり、書いたり、読んだり、と文字での英語を導入していくことになっています。それはこれまでの小学校英語活動の成果から、この年代の子どもたちの教育には文字を使うことが効果的であると考えられたからです。同じやり取りを繰り返し行っても、英語を定着させるのは難しいですし、それ以前に子どもにとって面白くありません。

子どもは、自分の知っている音(母語にある音)に引き寄せて英語の音を理解しようとします。文字を用いないで授業を行っているとどうなるでしょう。小学3年生のO君は"Nice to meet you."を「ナス3つ〜」、 "What can I say?"を「わっかんないぜ〜」と英語を日本語にはめ込んで覚えていました。なかなか上手なはめ込み方です。しかしながらこのように覚えていると、日本語とは異なる英語の音をきちんと身に付けることはできません。

また、書くことによって英語の語順に気づくことができます。つまり、日本語と英語の語順が違うことに気づくことができるのです。音声だけではこのような気づきは難しいでしょう。母語と英語とを相対化して身につけることができるとはこういうことです。わかっている母語を使用して英語を意識化することができるのです。文字を活用することは、子どもが自ら英語の語順や発音に気づき、英語を定着させることに有効なのです。

これまでの多くの日本人は母語習得や言語活動などについて、それほど意識的に考えてはこなかったでしょう。それは、日常生活の中で自然に身に付いてきたからです。しかし、現在の日本の子どもの状況を見ていると、意識して日本語を育むことは必要だと感じます。そして、豊かに母語を育むことが、将来的に英語を身に付け、使うことを可能にするのです。

※当記事は「東洋経済オンライン」からの転載記事です。
toyokeizai_logo200.jpg

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

アングル:「豪華装備」競う中国EVメーカー、西側と

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 4

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 5

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 6

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 7

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 9

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中