最新記事

BOOKS

日給1300円も普通!? 非正規・派遣が崖っぷちになる年齢は...

2018年6月29日(金)16時25分
印南敦史(作家、書評家)

Newsweek Japan

<東大卒で元アナウンサーのライターによる『東大卒貧困ワーカー』は、著者が体験した非正規労働の実態が赤裸々に明かされる衝撃の書。なかでも特筆すべきは、高齢の派遣労働者が直面する過酷な現実だ>

『東大卒貧困ワーカー』(中沢彰吾著、新潮新書)の著者はノンフィクションライター。1956(昭和31)年生まれということなので、今年で62歳ということになるが、まず特徴的なのはそのキャリアだ。

東京大学文学部卒業後、アナウンサー、記者として勤務するも、そののち退社。以後は派遣労働者として働きながら、ライターとしての活動を続けているというのである。


 筆者はこの4年、ライターとしての仕事の他に、非正規の派遣労働者として働いてきた。もともと大阪の毎日放送でアナウンサーとして勤務していた筆者が、このような境遇になったのは、決して不祥事とか当節流行の不倫が原因ではない。身内の介護というよくある事情から、こういうことになったのだ。以来、取材と実益を兼ねて非正規雇用の現場に労働者として立ち続けている。(「序章 働けば働くほど不幸になる」17ページより)

さらっと書かれてはいるが、著者の年齢を考えればなおさら、それが決して楽なことではないだろうと想像できる。事実、労働の現場で見聞きする状況は厳しく、アベノミクスの恩恵など感じられないことばかりだという。

例えば、日給3000円、2600円、1300円といった仕事は普通に存在しているそうだが、時給換算すれば最低賃金の半分以下ということになる。それどころか、実質ゼロのような現場もあるというのだ。

しかも問題は、それらが違法なビジネスではなく、いずれも2016年時点での日本において、人材企業からの求人メールや、ハローワークの求人票などで募集された就労条件だということ。働く側の事情や権利が、まったく考慮されていないのである。


 ハローワークによれば、21世紀になる前はこうした極端な低賃金求人はほとんどなかったという。全日勤務で8時間分の賃金が支払われていた。だが、近年、経営側の都合だけで極端な労働時間の短縮や過酷なノルマが設定されるようになり「この賃金で労働者は最低限の生活を維持できるのか?」という配慮は雲散霧消した。(「序章 働けば働くほど不幸になる」18ページより)

日本企業の海外での生産の拡大に伴って「日本人は中国、インド、東南アジア諸国の人々と対等な条件で競争せねばならないから、これからは賃金が上がらない、むしろ下がるのが当然」だという説があるというが、それは上記のような現実と見事にリンクする。

事実、著者が実際に受け取った、グローバル展開する世界的ネット通販企業の求人からも、そのような考え方を読み取ることが可能だ。


「2016年3月28日。夜勤募集。倉庫内作業。19時に渋谷に集合後、ワゴン車で小田原へ移動。勤務は翌朝6時まで(集合から11時間後)。終業後の都内への送迎はなし。交通費なし。食事なし。日当1万円。週2日以上できる方限定。宿泊便宜なし」(22ページより)

11時間拘束の徹夜勤務で日当1万円とは、あまりに大ざっぱすぎる違法な就労条件だと著者は指摘する。そもそも本来であれば、基本時給に深夜割り増しと残業手当を明示しなければならない。

しかも割り増し分を考慮すると、総額1万円なら基本時給は800円程度となる計算で、これは当時の神奈川県の最低賃金905円を下回る。「終業後の都内への送迎はなし」、すなわち送迎は片道だけだということだから自費で戻らなければならないが、小田原から東京まではJR利用で約1500円かかる。すると手取りはさらに減って8500円。時給に換算すると正味700円ということになる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

グリーン英中銀委員、インフレ圧力や賃金上昇指標を依

ビジネス

米ITA支援の外国政府調達契約、25年は前年比3倍

ビジネス

ドイツ25年借入額、当初計画下回る 歳出減と歳入増

ワールド

デンマーク首相、NATO事務総長と北極圏の安全保障
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 8
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    コンビニで働く外国人は「超優秀」...他国と比べて優…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 3
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 6
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 9
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 10
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中